企業は何のために存在しているのか。根本的問い掛けである。「社員の生活を守るため」というのも立派な存在理由だ。ただし、「守りの姿勢」と言われなくもない。同じ〝守り〟でも「地球環境を守る」といえば〝先端企業〟となる。では、仕事とは何か。 もともと〝仕事〟は人類が道具や機械を発明したことで生産性が向上し、分業が可能になったことから始まった。今ではそれが細分化・高度化し過ぎて、どれが本当に世のため人のために必要な仕事なのか分からなくなってきた。
ニーズとは何か
「人々の新たなニーズを開拓するのが我が社の仕事」といえば格好いいが、そもそも人間のニーズとはなにか。古来生理的、精神的に備えているものか。それともコンピュータなどの科学技術によって人工的に生み出されたものまでも含むのか。
スマホの普及を見ればわかるように、現代は科学技術と人間の欲求がイタチごっこをしているようなものだ。
コロナ禍が「働き方」への関心を高め、「仕事とは何か」を国民に突き付けたことは確かである。あまり大上段に構えても問題の本質をそらしがちだが、日本賃貸住宅管理協会東京都支部が5月24日に開いたオンライン総会は、「仕事とは何か」を平常心で捉えたとても有意義な内容となっていた。記念講演で登壇した片平智也アートアベニュープロパティマネジメント事業部長の話も、賃貸管理業務のあるべき姿とその方向性を語りながら、不動産業界における企業が何のために存在し、社員にどう働いてもらうべきかを示唆するものとなった。
特に筆者が関心を抱いたのは、同社には「パーソナル・キャリアプログラム」という社員教育制度があるらしいということだ。これは、社員一人ひとりに、まずは日々追われている〝業務〟というフレームを外して、仕事の意義や目的について考えてもらう。そして会社が存在する社会的意義を感じ取ることができたら「では、自分は今の仕事を通じてどうなりたいのか、何になりたいのか」を明確にし、専任の社員と共にその目標に向かって、今後どういう勉強に力を入れ、そのための資格をいつまでに取得するかというスケジュールを立てるのだという。
社員教育というと、新入社員を対象にした研修会などをイメージしがちだが、そうではなく社員一人ひとりと面談し、個別の目標を設定し、会社がその実現をバックアップしていくという制度である。 同社は藤澤雅義社長の強い思い入れもあって、「楽しくなければ、仕事ではない」というルールも設けているのだという。なぜなら仕事が楽しくなるためには、世のため人のためになっている実感が必要だからだ。
新たな船出
全国定期借地借家協会(旧全国定借機構ネットワーク、増井聡彦代表)は5月26日、7回目となる情報交換会を都内で開いた。恒例により、各地の定借機構が現状報告を行った後、組織の名称変更とそれに伴う今後の活動方針などについて話し合った。
同協会には各地の定借機構だけでなく、不動産終活支援機構(齊藤正志代表)、広島県空き家利活用研究会(金堀健一代表)、関西定借デザイン研究会など色々な団体が参加してきている。そのため、今後は「定期借地権借家に限定せず、高齢化が進む日本の様々な問題について議論していくべき」「定期借地借家の普及を阻んでいる要因を分析し、定借の仲介手数料のあり方についても議論してはどうか」などの意見が出された。 同協会はかつて「全国定期借地借家権推進機構連合会」に所属していた14機構が一斉に脱退したあと、ゆるやかな情報交換会として立ち上げたネットワークが前身となる。 今後はこれまでのような情報交換だけではなく、空き地・空き家活用、高齢者の老後資金問題、相続対策など山積する社会課題解決のために定期借地と定期借家をどう活用して行くべきかを議論していく。同協会の存在理由を掛けた新たな活動が始まろうとしている。