売買仲介

仲介業の未来(下) 得意分野と実績で選ばれる 「エージェント化」は進むか

 仲介担当者と依頼者が直接出会うためのマッチングサイトには、担当者の得意分野や実績が重要な要素として書き込まれる。マッチングサイトの活用は、物件を選ぶ前に信頼できるパートナーを選ぼうという提案だ。これは不動産ポータルサイトで物件を絞り込んでから不動産業者にコンタクトを取るという近年の傾向とは逆の方向となる。仲介業は今大きな転換点を迎えているのだろうか。

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 不動産ポータルサイトの普及によって、住まいを探す人はまずインターネットで自分の希望にマッチしていそうな物件を探し、それから不動産会社に問い合わせをするのが一般的だ。近年の傾向であるこの〝物件先行〟は合理的にも見えるがリスクもある。まったく同じ物件は存在しない不動産という世界で、目利きのプロとしての仲介担当者の存在が重要視されていないからだ。不動産の素人であるユーザーには見抜けない落とし穴があるかもしれない。

 この〝物件先行〟が主流となってきた背景には、仮に不動産業者への訪問を優先した場合でも、自分の担当者に、不動産のプロである宅地建物取引士が選ばれるという保証はないことも理由として想定される。幸い宅建士だったとしても、その能力や実績が明示されるわけではない。

 また、ユーザーの、宅建士に対するイメージがはっきりしないことも影響していそうだ。宅地建物取引法上の宅建士の役割は重要事項説明書や契約書への記名押印などがあるが、そのこと自体があまり周知されておらず、理解しているユーザーからしても、宅建士は「重説や記名押印するための資格」という印象を持っている可能性がある。そうではなく、実務にたけ、常にそのスキルに磨きをかけている真のプロフェッショナルというイメージへと脱却することが仲介業の進化には欠かせない。

資格要件を厳格化

 不動産流通推進センターが宅建士の上級として「宅建マイスター」という資格を創設し、その資格更新要件の厳格化に踏み切ったのもそのためだ。同センターでは20年に「公認不動産コンサルティングマスター」と「宅建マイスター」に対する倫理規定と誓約書制度も整備している。

 今後、マッチングサイトの利用が進み、そこでユーザーから選ばれた回数などが〝信頼指標〟になっていくと、宅建士のエージェントとしての社会的評価が定まっていく可能性がある。

 本格的なストック活用時代に入り、ユーザーの選択肢が拡大するにつれ、取引の安心・安全、より満足度の高いサービスが求められるようになる。その高い満足度は顧客のニーズに沿ったエージェントとしてのサービスの質の高さによってもたらされる。

 物件情報サイト利用が主流の今、マッチングサイトがどのように食い込んでいくのか、これからの仲介業がどこまでエージェント化の方向に進むかを決める分かれ目にもなりそうだ。  (井川弘子)