森ビルは1月17日、小堀鐸二研究所と共同で開発した独自の「土地建物格付けシステム」について発表した。IoT技術を活用し、地震発生時の観測データから建物の〝揺れ性能〟を分析・格付けするシステムで、2月を目安に全面展開する社会実装を経て、外部向けサービスの提供へとつなげていく予定だ。
今回のシステムは、建物の屋上など頭頂部、1階フロア、周辺の地面の3カ所に地震センサーを設置し、当該地盤における揺れと建物内における揺れを観測して、各建物の〝揺れ性能〟を評価するというもの。一般的な〝耐震性能〟とは異なる指標で、免震構造など建物の揺れをあえて抑制せずに躯体被害を軽減する建物の場合、〝揺れ性能〟に関しては、低めの評価が想定される。
森ビル都市開発本部計画企画部メディア企画部の矢部俊男部長は、同日の記者説明会で「地震で揺れれば、(建物自体は無事でも)例えばフロア内にいる人の心身への被害や物的被害などにつながる。そのため、〝揺れない〟ということは建物性能の一つと考えている」と語り、同システムによる評価の有用性を解説した。
開発の背景には、新耐震基準の制定から約40年が経過し、同基準の建物にも改修や更新などの必要性が生じ始めているという状況がある。一方、脱炭素化などの潮流もありストック活用の重要性が増しているため、土地建物や都市全体の耐震安全性を可視化すると共に、既存建物の性能評価をオーナーに提供することで、耐震改修の促進と優先順位判断につなげていくことを目指す。
外部サービスは23年から
同システムは、建築研究所の委託研究制度「革新的社会資本整備研究開発推進事業(BRAIN)」として研究開発を行っているもの。プロジェクトの総額は約3億円で、当該事業により生じた収益で委託費用を全額返還するという仕組みとなっている。
使用する地震センサーは、小型で省電力、無線式の機器を独自開発。乾電池で1年以上駆動可能なため電気工事が不要であり、観測データをクラウド経由で収集するため、比較的安価かつ手軽に導入・運用できるシステムを構築した。センサー機能は建築研究所の観測機器との比較検証を行っており、「専門家から見ても、ほぼ同等のデータが得られている」(矢部部長)という精度だ。
収集した観測データは、森ビルと小堀鐸二研究所による独自のアルゴリズムを用いて解析。地震発生時の揺れに関する定量評価と格付け評価を行い、評価レポートとしてまとめて、物件オーナーなどに提供する。格付けは相対評価による偏差値の形を想定している。
既に実際の建物への設置を開始しており、2月には36件(108機)のシステム導入施設による社会実装を本格始動する。その後約1年かけて観測データ収集や運用チェックを行う予定。そして23年1月からは、外部の民間ビルオーナーやディベロッパーなどを中心にサービスの提供を始め、収益化を図っていく計画だ。