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飛躍への岐路 踏み出す一歩 矛先は代替資産 コロナ禍、投資マネー流入加速 収益機会を広げて成長 学生寮、トランクルーム、データセンター 危機下の安定稼働に期待

 住宅・不動産市場にもコロナ禍の影響が色濃く出ている。リモートワークの浸透に伴いオフィスビル市況が悪化し、商業施設は休業・営業時間の短縮などで収益の悪化を招いた。半面、巣ごもり需要が増してEコマース(電子商取引)が活況を呈し、それに伴い物流施設はフル回転で稼働する。賃貸住宅も底堅い。そうした中で運用先を探す投資マネーはオルタナティブ(代替)と呼ばれるアセットに照準を当てている。オフィスや住宅といった伝統的なものではなくデータセンターや学生マンション(寮)、トランクルームといった資産だ。コロナ前から注目を集めていたが、コロナ禍で安定収益機会として新興市場にリスクマネーを投じる動きが活発化している。

少子化も進学率上昇カギ

 新型コロナウイルス禍が出生率に輪をかけて影響を与えて少子化が加速する可能性が高い。将来の賃貸住宅市場に影を落とす。だが、学生を対象とする集合住宅の開発・供給にカジを切る住宅・不動産会社が増えている。学生寮・学生マンションに熱い眼差しを向ける投資家たちが少なくないためだ。賃貸借契約は入居者の保護者と交わすケースが多いことから、身元がしっかりしており家賃滞納のリスクも低い。少子化でも進学率は上がっており、この進学率と少子化の反比例の動きを見逃さない。ポストコロナの留学生需要の復活も少子化時代の切り札だと期待し、東京圏・大阪圏の大都市や地方都市などの大学や短大、専門学校の周辺や通学圏内に単身向けの供給が進んでいる。

 賃料を単価ベースで見ると、ファミリー向け賃貸住宅に比べて収益性が高い。学生需要は景気の浮き沈みにも左右されないのも強みとなる。卒業まで安定的に稼働し、卒業という退去時期も予測でき、次の入居者の募集も始めやすい運用のしやすさが投資家を引き付けている。

 学生マンション事業を展開する毎日コムネットの21年5月期実績を見ると、総管理戸数は211棟・1万975戸(前期比316戸増)となった。コロナ禍で一時的な帰省などで食事付き物件での未喫食者に対する減免措置等の影響はあったが、新規入居者募集は16年連続で満室。防犯性能や食事付きなど親が安心できる機能を併設し、プライバーシーを重視する視点と学生間の交流を促す双方に気配りをした仕掛けづくりが運用ポイント。学生向け専業者に限らず、少子化で縮む賃貸需要の盲点に気づいた開発事業者の本格参入が続きそうだ。

トランクルーム10年で倍増

 遊休地や変形地、狭小地などを持て余す地主やコロナ禍で飲食・サービス店が撤退した後の店舗ビルのオーナーなどがトランクルームに着目する。利用者は季節物の衣類や電化製品、趣味関連の道具などを収納する例が多い。

 トランクルーム大手のキュラーズ(東京都品川区、スティーブ・スポーン社長)は、市場規模について26年に1000億円規模になると予測する。同社の21年11月に発表した調査によれば、20年の市場規模は670億円と過去10年で倍増している。全国のトランクルーム延べ室数は統計史上初めて50万室を突破。店舗数も1万1000店超とファミリーレストラン市場を上回る店舗数に達した。

 リモートワークやオンライン学習の浸透が急速に進んだことと、居住環境の変化による新たな生活様式に即したニーズが生まれつつあるとする。広い土地の確保が難しい都心部などで住宅の狭小化が進んでトランクルーム需要は旺盛。20年ほど前に比べて1戸当たりの住宅の平均床面積は15m2減少しているという。都心を中心にトランクルーム専用の新築ビルによる出店が増加しているなど今後の大きな成長を期待している。

 運用の特徴は満室稼働に時間がかかるものの、一度使ってもらうと長期契約が多い。利回りは低いが安定性は高い。商業施設のように大口テナントが一斉に抜けて困る懸念もない。維持・管理費は他のアセットより抑えられ、築年数を気にする利用者も少なく利用者が要求する条件はそれほど高くない。一定のセキュリティと空調機能を備えていればいい。利用者はトランクルームに「近さ」「料金」「設備」を選択基準とする。遊休地や遊休施設の再活用といった側面からの伸びしろは大きい。米国は2兆円産業に育ち投資マネーも流入する。

データセンター開発競争

 コロナ禍での在宅勤務と巣ごもり需要。ジョーンズラングラサール(JLL)によれば、国内にはデータセンターと呼ばれる施設がおよそ600カ所に上り、サーバー面積は関東圏(60%)と関西圏(25%)を合わせて85%と大半を占める。規模は将来のデータ容量の増大を見据えて余裕を持って賃貸面積を決める。つまり、スタート時に満室稼働になることはなく、空室を抱えた状態で運用する。将来の事業規模を見据えて先に床を手当てするのが特徴だ。

 その国内データセンター市場に海外企業が注目している。日本は地震が多く国土も狭いが、電力・通信のインフラの質が高い。世界のインターネットのハブと言われる米国との通信環境も良好で高等教育を受けた人材も豊富だ。停電回数は米国よりも少ない。政情や治安といった地政学的リスクが小さく運営しやすいことに注目が集まる。

データセンター市場の専門家によれば、アジア太平洋の成長率が大きい。シンガポール、香港、シドニーに存在感があるが、海外プレーヤーは東京と大阪に熱い視線を送っているという。日本は海外企業からも着目され、市場拡大の機運が高まっている。

 クラウド業界の急成長が大きい。このクラウドプレーヤーに照準を当てた開発が今後のトレンドだ。技術革新により蓄積するデータ容量は増大を続け必要なサーバー面積がどの程度まで拡大するかは読みづらいが、過去20年間は需要が技術革新を上回っている。データセンターの開発競争時代が当面は続きそうだ。