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飛躍への岐路 踏み出す一歩 賃貸新時代を追う 多様化するニューノーマル対応 管理業法、修繕費損金算入などが後押し

 コロナがもたらしたニューノーマル(新常態)は、住まいのあり方に大きな変革をもたらそうとしている。中でも賃貸住宅は社会インフラとしての役割が高まってきた。これまで、持ち家を取得するまでの仮住まいとしての位置付けが濃かったが、在宅時間が増えたことで、その質的向上は喫緊の課題になりつつある。一方、コロナによる所得格差拡大がいわれる中、住宅弱者のためのセーフティネットとしての役割も増している。また、テレワークを活用した二地域居住など多様なライフスタイルに対応しやすい住まいとしての期待も高まっている。賃貸新時代の幕開けを追った。

 賃貸新時代の幕開けはコロナ禍の21年6月に全面施行された賃貸住宅管理業法が象徴する格好となった。従来から管理業務は賃貸仲介業の延長として捉えられがちだったが、管理業法の施行によって1つの専門分野となった。その証拠に賃貸不動産経営管理士という新たな国家資格も誕生した。日本賃貸住宅管理協会の塩見紀昭会長もこう話す。「賃貸不動産経営管理士が国家資格化された意義は大きい。業務管理者になれるということだけでなく、管理業務に精通した人材の輩出につながっていく」

アフターコロナ見据え

 コロナ流行から約2年。今年こそはと収束が期待されている。収束すれば外国人観光客によるインバウンド需要が再び盛り上がることは確実だ。観光客だけでなく、技能実習など日本で働く外国人の流入も活発化するだろう。そうした人への良質な住まい提供が、これからの賃貸住宅業界の重要な使命として求められている。昨年12月に開かれた日本賃貸住宅管理協会のオンラインセミナーでは、アフターコロナを見据え、外国人入居促進についてのポイントが紹介された。セミナーの中で、同協会あんしん居住研究会会長の荻野政男氏は、「我々にとって新しいビジネスになる。新たな賃貸管理業が始まる」と述べた。

 一般的に外国人の入居を敬遠するオーナーが多い中、荻野氏は長年、外国人向け賃貸管理を手掛けてきた。入居が進まない要因には、オーナー側には生活習慣や契約に関する違いによるトラブルが起きた場合、誰が責任を持って対応するのかという懸念、借り手側も言葉が分からない、保証人が見つからないといった課題がある。荻野氏は、そうした問題の解決につながるガイドラインなど様々なツールがあることを説明。そして家具家電付きやシェアハウスなど工夫次第で不人気物件が満室になった事例を紹介した。

 良質な賃貸住宅を提供していくには、オーナーに対する経営支援も欠かせない。その意味では昨年11月に開かれた自由民主党賃貸住宅対策議員連盟(ちんたい議連)の総会で報告された「賃貸住宅大規模修繕積立金の損金算入制度」の実現が大きい。これは、物件オーナーが将来の大規模修繕に備えて共済組合に収めた金額がその年の経費として認められるという制度だ。まずは屋根と外壁の工事を対象としてスタートするが、業界団体からは室内の水回りなど内装設備の工事費も含まれるよう対象範囲拡大の要望が出されている。オーナーの中には資金的に厳しい状況の人もいる。経費として認められると支出しやすくなり、賃貸住宅の質向上につながると期待されている。

事故物件対応で指針

 賃貸住宅の新時代を支える制度が昨年もう一つ誕生している。それが、心理的瑕疵に対する国交省のガイドラインだ。同省は昨年10月、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定・公表した。過去に他殺、自死、事故死など人の死が発生したいわゆる「事故物件」に関する指針をとりまとめたものだ。例えば、賃貸借契約では、集合住宅の共用部分で発生した自然死や不慮の死について告知義務はなく、それ以外の死が発生していた場合には発生からおおむね3年が経過した後は告知義務なしとされている。

 このガイドラインが示されたことで、家主や管理会社が高齢者の入居を受け入れやすくなることが期待されている。賃貸住宅市場が生活の基盤として広く支持されるためには、高齢者などの住宅弱者も受け入れていく姿勢が欠かせない。 

 これまでの住宅政策は景気対策などの観点もあってどちらかといえば持ち家市場にスポットが当てられがちだったが、賃貸新時代はそうした住宅政策と住宅市場の転換を促すことにもなりそうだ。