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飛躍への岐路 踏み出す一歩 大手デベ、新規事業を加速 社内提案制度から発展 不動産の可能性広げる

 大手ディベロッパーは、不動産開発・運営の次を見据えた事業を本格的に模索し始めている。三井不動産は、新規事業を行う専門の子会社を立ち上げ、21年末から次々と新たなサービスの展開に着手した。三菱地所は、社内公募を通じて社員をトップにした新会社を設立し、経営の当事者として新規事業を展開する。これらの事業の中には、不動産とは直接は関係が無い事業もあるのだが、将来的には既存事業領域とのシナジーも期待できる、アフターコロナの不動産の可能性を広げるものだといえる。

専業の新会社立ち上げ、機動的に新サービス打ち出す 三井不動産

 東京・湾岸エリアに建ち並ぶマンション群。東京・中央区晴海にある「パークタワー晴海」の敷地の一角にやってきた数台の移動式車両は、人気のパンや京都のさば寿し・わらび餅専門店に姿を変えた。晴海に現れた移動式車両店舗は、ShareTomorrowが始めたシェアリング商業プラットフォームサービス「MIKKE!」によるものだ。

 三井不動産は、21年7月に新規事業を行う子会社として「株式会社ShareTomorrow」(東京都中央区、須永尚社長)を立ち上げた。「MIKKE!」は、固定店舗とECの中間領域にある新たな買い物体験として、移動車両を出店者に貸し出し、店舗特性に合わせた回遊ルートを提示することで、新たな販路開拓やプロモーションとしての活用を提案する。また、消費者にとっては、身近な場所にいろいろな店舗が来る新たな購買体験が楽しめる。東京・湾岸エリアを中心に今春までに60店舗以上の稼働を予定する。

 ShareTomorrowは、コロナ禍で働き方の自由度が高まり、個人の選択肢が増えたことに着目。三井不動産グループによる住宅は、生活をする場の提供というハードの面に加え、新しい住まい方をしている人に対して、住まい方を提供するソフトの面を強化している。「MIKKE!」のほか、移動式ユニットを利用した遊休不動産活用の「HUBHUB プロジェクト」、マンション・商業施設・ホテルにおける不動産MaaSの新サービス「&MOVE」の提供を行っている。

 事業ごとに別途新会社を設立して展開する手法もあるが、ShareTomorrowは「もっと手前の段階で、インキュベーションが必要な事業を手掛けている。三井不動産の社内で取り組んでいる事業もあり、まだ体系的に分かれているわけではないが、一つ一つ最適解をみつけていきたい」(須永社長)と言う。

 前述の事業については、「必ず軌道に乗せなければならない」(須永社長)とし、当面は立ち上げた事業の拡大に注力する方針を示している。

提案者が新会社設立、変化激しく当事者意識重要 三菱地所

 三菱地所の新事業展開は、事業提案者による新会社の設立という特徴がある。1999年に社内ベンチャー制をスタートし、現在は「新事業創造部」が、社員による新規事業提案制度「MEIC」を通じた取り組みを進めている。この制度は、グループを含む社員のアイデアを事業化までサポートする。MEICは17年度以降、応募総数160件超でうち8件を事業化。21年度は過去最高の89件の応募があった。

 三菱地所は、新規事業の全てではないが、社員が新会社を立ち上げ、トップとして経営するという形で展開している。例として、女性社員2人が代表者となっている瞑想スタジオ事業「Mehicha」や農業の「MECアグリ」、マイクロツーリズムの「膝栗毛」などがある。

 社員の新会社による新規事業参入について、同社は「ビジネスモデル革新の風土醸成という意味合いもあるが、変化の激しい市場において成果を出すためには、当事者意識がある事業発案者が継続的に事業の舵取りを行うことが不可欠と考えているため」としている。

 三菱地所は、今後の新事業の展開をどう考えているのか。「今後も既存領域、新事業領域とも新たな挑戦を続け、価値創造、新しい価値実現に向けた取り組みを推進していきたい。特に新事業提案制度については、コロナ禍による新たなライフスタイルの登場や、あらゆる産業のデジタルシフト等で急速に変化する事業環境を踏まえ、今年度より対象をグループ会社にまで拡大した」(同社)。