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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇29 「知識と経験」をつなぐ 「人財ネットワーク制度」に期待 人を大切にする不動産業へ

日管協が創設

 昨年は〝DX旋風〟が巻き起こった感があるが、今年は「人への投資」が不動産業界のキーワードになる予感がする。1月20日、日本賃貸住宅管理協会は「人財ネットワーク制度」を始める。これは、賃貸住宅管理業界で働く人が結婚や配偶者の転勤、親の介護などに伴う転居で退職を余儀なくされた場合でも、転居先で継続して管理業界で働けるようにするもの。

 全国で約2019社(正会員1637社、特別会員382社))が加盟している同協会のネットワークを活用する。これまでのキャリアを生かして働き続けたい人と、経験のある人材を採用したい会員社をつなぐ仕組みだ。

 同ネットワークに登録し制度を利用する際の費用はいっさいかからない。ただし、登録した会員社は担当窓口(担当部署)を決め、再就職の希望があった場合は迅速に対応し、採用の可否などについて同協会へ報告する義務を負う。

 一方、再就職希望者は正規・非正規を問わず、性別、年齢、雇用形態などの制限もない。ただ採用の可否は各社の基準で判断する。

 同制度は同協会レディース委員会の濱村美和委員長(不動産中央情報センター社長)の立案によるもの。

 「適正な管理業務を遂行するに当たっては、幅広い知識と経験が必要となる。そうして何年もかけて育った人材が子育てや親の介護などによりキャリアを途切れさせてしまうのはもったいない」というのが立案した動機だという。女性経営者ならではの従業員に対する優しい目線が感じられる。

 日管協レディース委員会は97年10月に設立された。今では日管協に設置されている部会の中でも最も歴史のある組織の一つである。99年に同委員会の二代目委員長に就任し、その後08年には日管協会長に就任した北澤艶子氏(北澤商事会長)も常々こう述べている。

 「管理はこまごました仕事が多く、女性に向いている。そして女性がキャリアを積みながらいつまでも生き生きと働ける業界は外から見ても魅力的で輝いて見える」

信用を育てる

 不動産業界の未来は働く社員のキャリアをどう生かしていくかにかかっている。例えば仲介営業の現場でせっかく経験を積んでも、一般的には中年以上になると管理職や役員のポストに就けた人を除けば社内での出世コースが細っていく。

 しかし、人間相手の仲介営業は多様な経験こそが宝である。その宝を磨き続ける制度があってこそ不動産業界は輝くことができる。

 営業マンがエージェント制になっていて、それぞれ個人事業主のようになっている米国では顧客からの信用を個人として積み重ねていくことができるが、日本はそうなっていない。

 日本でも将来的には宅地建物取引士や賃貸不動産経営管理士の独立性を確保する法改正を行い、米国のようなエージェント制への移行を目指すべきだと思う。

真価問われる年

 今回の「人財ネットワーク制度」は賃貸住宅管理業界で働く社員の個人的キャリアを大切にしたいという思いがベースにある。賃貸管理業界は昨年6月に賃貸住宅管理業法が全面施行されたことで、今年からその真価が問われ始める。同制度の普及によって、賃貸管理業界全体の活性化と質的向上につながっていくことが期待される。

 賃貸業界に限らず、住宅不動産業界全体の底上げに欠かせないのは人的投資である。近年、業界では「我が社の社員紹介」としてホームページで顔写真、年齢、不動産営業歴、保有資格、出身地、趣味や信条などを紹介する会社が増えている。

 いずれ、「人財ネットワーク制度」を活用して転職した社員のプロフィールが掲載されるようにもなるだろう。このように人を大切にし、人を育てる業界であってこそ、不動産業界の未来が拓けてくる。