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地方創生、試される本気度 (2)スーパーシティ構想 消滅に現実味、焦る自治体 世代が循環する町づくり欠かせず

 地方の不便さを解消して東京一極集中の解消につなげる。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて国もテレワークを盛り込んだ新たな住生活基本計画を推し進める。人口減少に伴い過疎化が止まらない中で打つ手がそう多くあるわけではないが、地方創生ではデジタル技術の活用が肝だ。人工知能(AI)やビッグデータなどを使って都市部と同じサービスを受けられるよにするスーパーシティ構想が相次いでいる。

 スーパーシティ構想はキャッシュレス決済や自動走行車両の整備、行政サービスのIT化などを想定しているもので、今年4月に締め切られた内閣府の「スーパーシティ型国家戦略特別区域」の公募には計31の地方公共団体から応募があった。

 内閣府地方創生推進事務局では、2030年ごろに実現される未来社会とする。人生100年時代の高齢社会を踏まえてのヘルスケア・医療分野やモビリティに焦点を当てたり、国立大学との連携で先端技術とサービスを社会に実装する、歴史的な遺産と自然を生かした町づくりなど各自治体の強みを生かすといった提案が相次いでいる。

 茨城県つくば市は、大胆な規制改革による「つくばサイエンスシティ構想」を打ち出した。例えば、つくば駅周辺をハブとして交通サービスをMaaSプラットフォームから検索・予約・決済を可能とするネットワークを構築したり、筑波大学附属病院との連携で移動と診察を組み合わせたサービスや、どこに住んでいても快適に買い物ができる街として自動配送ロボットとドローン活用による配送支援、到着時間を正確に把握する移動スーパーの高度化など高齢社会を見据える。

 和歌山・すさみ町は「南紀熊野スーパーシティ構想」を掲げる。人口約3800人の町で毎年100人ほど人口が減少し、高齢化率もほぼ半分を占める。町が消滅しかねないと危機感を持ち、羽田空港から約90分の距離感と熊野古道など豊富な観光資源を生かしワーケーションや長期滞在を促進する環境を整備する。民泊可能日数の上限撤廃などの規制緩和で地域住民との交流人口の増加も打ち出した。

 前述の31地方団体の構想は社会の高齢化に対応した取り組みが並ぶが、若者や子育て世代への打ち出し方が目立たない。これからの世代への配慮を欠くとスーパーシティ構想が頓挫しかねない。大都市に人が集中する背景には医療の充実と共に教育環境が挙げられる。高齢者にバイアスのかかった町づくりは先細る。高度な教育をいつでも受けられる将来世代を見据えた取り組み、自治体はそこへつなげようと企業誘致も急ぐ。

 経済産業省の「工場立地動向調査」によると、20年度の立地件数は茨城県(65件)が最多だった。重厚長大産業の衰退に危機感を抱く茨城県は今年5月に独自に産業拠点創出プロジェクトを発表し、再生可能エネルギーに焦点を当て企業誘致拡大に向けて本社機能の移転などに最大50億円の補助を出すことを決めた。

 不動産業界はどうか。日鉄興和不動産は岩手県釜石市とワーケーション施設を開業した。複数人が同じ空間で仕事ができるコワーキングや余暇と仕事を融合したワーケーション施設を整備する動きが活発だが、三井不動産はそこにとどまらず近未来社会を深掘りする。千葉・柏の葉スマートシティでドローンや自動運転など首都圏最大級の屋外ロボット開発検証拠点を稼働させ最新技術の実証がスムーズにできる場を提供し、新産業の創出に関わる新たなビジネス領域に踏み込んだ。