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地方創生、試される本気度 (1)二地域居住 格差縮める狼煙となるか 定住人口奪い合い脱却、関係人口を増やす

 戦後ニッポンは、高度経済成長と共に人口が増加して高齢者は絶対数で少ない時代を歩んできたが、その時代の発想があらゆる場面で通じなくなり、少子高齢の人口動態を踏まえての新たなビジネスモデルが求められている。社会情勢に合った商品・サービスをサプライヤーが提供できるかが問われる中で新種ウイルスの爆発的感染に見舞われた。感染防止の観点から在宅勤務が広がりを見せて、それを後押しするリモートワークが東京一極集中から脱却するカギになると、災いの中で見つけた光明に地方自治体の鼻息は荒い。新たな不動産需要が地方に芽吹くのか。地方創生の本気度をシリーズで追う。

 総務省が10月26日に発表した住民基本台帳人口移動報告によれば、9月の東京都からの転出者が5カ月連続で転出超過となった。転出者が転入者を3533人上回った。東京圏(1都3県)としては2カ月連続で転入超過だった。 新型コロナの影響に伴い長期に及んだ緊急事態宣言が影響し、人の混雑を避けたり、毎日出社する必要がなくなったことで居住コストが低いエリアに転居する動きを反映していると見られている。

 ただ、地方移住の関心が高まったものの、その関心がどこに向かったかを見ると、千葉や茨城など相変わらず首都圏の人口が増大している。伊藤忠系調査会社のマイボイスコム(東京都千代田区)が今年9月に実施した「二地域居住・複数拠点生活に関するアンケート調査」によれば、複数拠点生活の実施者が別拠点への移動にかかる時間は「30分未満」「1~2時間未満」「2~3時間未満」などが2割弱ずつを占めている。

地方自治体の首長は本腰

 もっと柔軟に移動できる環境整備が二地域・複数拠点での移動距離を広げることに欠かせない。移動にかかる交通費や建物の維持管理費であったり、移住につなげるならば住民票、納税などの制度面の対応のほか都市部に劣る公共交通網を補完するモビリティの充実などがカギとなる。

 東京周辺にとどまらず地方へと人流がにじみ出るのか。世代が循環している町を創出できるかがポイント。二地域居住をその起爆剤にと熱い視線が注がれ、東京からの需要獲得に向けての大競争時代が訪れる可能性を指摘する声も少なくない。

 そうした中で「全国二地域居住等促進協議会」が今年3月に設立された。会長の阿部守一氏(長野県知事)は、「全国の自治体と力を合わせて国土交通省とも連携して取り組む。テクノロジーが進み、人々の価値観も変わってきている。大きな社会の変化を捉えて地方創生につなげなければならない」と意気込んだ。

 自治体の多くはその地域に人が住み続けることを前提に住宅政策とセットで取り組んできたが、筑波大学の谷口守教授は「都市から地方へだけでなく、地方から都市への流れもある。地域間の双方向性で交流が増えて関係が拡大する。緩い定義で話をしたほうがいい」との見方をする。

 地方創生では空き家をどう活用するかが最大のテーマ。自治体は空き家バンクを活用して移住者に格安家賃で住まいを提供したり、移住に使える住宅取得補助などの支援を実施する自治体が増えている。政府も東京23区の居住者などが地方に移り住んだ場合に最大100万円を支給する支援事業に、転職しなくてもリモートワークで東京の仕事を続ける人を対象に加えるなど施策を相次ぎ打ち出した。

ボトムアップで活性化

 ただ、移住・定住といった人口の奪い合いは根本的な解決にならないと関係人口の増加が重要だとの見方も増えている。来街者を増やす。例えば、空き家を映画好きやジャズ好きが集まる空間に仕立てて定期的に映画を上映したり、ジャズ演奏会を開き、時には著名な俳優や音楽家を招いてイベントを開催する。その地域に訪れる関係人口の増加が活性化につながる。

 街の再生で評価の高いエンジョイワークス(神奈川県鎌倉市)は、兵庫県の「龍野まちごとホテルプロジェクト」で関係人口を増やす取り組みを10月30日に試験的に行い、醬油工場跡の蔵内にダイニングキッチンを設営して地域の食材を使ってシェフが特別メニューを提供。「食で育む関係人口」は移住・定住に頼らない地域活性策の一つだ。

 同社は「空き家再生プロデューサー」という専門家の育成にも取り組む。クラウドファンディングなどで資金を調達し、それぞれの街作りでは地域と事業者が一緒になってボトムアップで展開することを軸とする。勝ち負けと格差を生まない視点は重要だ。