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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇10 6つのマナーを制定 BESS、住む人に条件 〝梺六範〟ってなんだ

 向こう三軒両隣、仲良く気持ちよく暮らせたらどんなに楽しいだろう。仮に「住みたい街ランキング」などで憧れの街に住んだとしても、隣人との関係をこじらせ日々悩むようなことになったら台無しだ。それを恐れてか、隣人との付き合いは挨拶程度で深入りせず、〝隣は何をする人ぞ〟で済ましてきたのが戦後の日本人の暮らしである。しかし、それでは価値あるコミュニティは生まれない。何かを創造してこそ、人の暮らしといえるのではないか――。 

 7月29日、アールシーコア(BESS)は「梺六範~ダークな人ほどクリーンになれる~」と題した記者会見を行い、次世代型コミュニティを予感させる新たな事業戦略を発表した。

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 同社は17年から、自然を身近に感じながらおおらかな暮らしを楽しむ〝梺ぐらし〟という生き方を提案してきた。今回の発表は、その〝梺ぐらし〟に適した用地を今後はBESSが取得・開発した上で(この日小諸など3候補地を発表)、居住希望者を募るというもの。ただ、そこの住人になれるのは〝梺六範〟と名付けた6つの規範(マナー)に賛同する人たちに限定するというきわめてユニークな試みである。

 せっかく家を購入してくれるというのに、事業者側が勝手に定めたマナーに賛同するという条件をつけるのは尋常ではない。なぜ、そのような大胆な戦略を打ち出したのか。まずは同社専務、永井聖悟氏の話。

 「本来なら早く売ってしまいたい。でもそこをあえて我慢して〝梺六範〟に賛同する人たちだけでコミュニティを創る。その〝我慢〟が付加価値を生む。だから梺六範に賛同いただけない方には分譲いたしません」

 では、その梺六範とはどういうものなのだろうか。その前文にはこうある。

 「デジタル文明の発展でマネー経済は異常なほど進んでいるが、必ずしも幸せの広がりと連動している訳ではない。むしろ倫理観が廃れていることが目立つ昨今である。(そんな世の中に)梺六範で一石投じたい。この六範は慣れると心地良い。心地良ければ自然に浸透してゆく。下限の倫理観がなければ、人類に未来はない」。具体的には(1)明るい挨拶、明るい梺(2)されていやなことはなるべくしない(3)独り占めより、共存の誇り――と続く(以下別掲)。

善人性誘発装置

 発表後に行われた筆者との対談の中で〝六範〟を創案した二木浩三アールシーコア社長はこう語った。「梺六範はいわば〝善人性誘発装置〟。自然の一部としての人間は本来自由で善良で幸福だったが、社会と文明が人を不自由にし、邪悪にし、不幸に陥れた。その崩れたバランスを回復し、人間が本来持つ善良性を引き出すのが6つの徳。これらは慣れると心地良い。心地良いから浸透してゆく」

 こうしたBESSの思想を追いかけていくと、結局楽しい暮らしとは何か、人生どう生きるべきかという問いに突き当たる。それについて二木社長は「意志と自己克服こそが幸せの原点。道中楽しいのが一番いい」と話す。

 そういえばアドラーも言っている。「ダンスをするように生きよ」と。人生は線ではなく、一瞬一瞬という点の連続なのだから〝いま、ここ〟を真剣に生きるべきなのだと。「曲がり真直ぐ、BESSの道」にも通ずる思想である。人生は刹那の連続であるからこそ、どこに到達したかではなく、どう生きるかに意味がある。

 永井氏は「BESSファンはもともと生き方に敏感で、隣人と共に生活を楽しむことに価値観を見出すオープンな人たちが多い」と指摘した。

 これを受け、最後に二木社長は「人間の根っこは外向き。本来のコミュニティは自然に生まれるもので、そこでは人間の善良性が引き出され楽しい暮らしが生まれる。暮らしが楽しければ世の中が豊かになる」と梺六範の意義を控え目に語った。