政策

国の施策から見る テレワークへのシフト加速化 拠点整備支援など好機随所に

 昨年来猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症は、様々な面で社会のあり方を一変させた。その大半が人々に困難を強いるものである一方、コロナ禍を奇貨としたポジティブな社会変化も確かに存在する。労働を〝場所〟と〝移動〟の制約から解放するテレワークの急激な普及は、そうした社会変化の筆頭に挙がるものの一つと言えるだろう。「デジタル化」を政府方針として掲げる菅義偉内閣の下、国もテレワーク関連の施策に注力。多様なオフィスのあり方や職住のボーダーレス化など、住宅・不動産業界への影響も大きなテレワークについて、国の20年度第3次補正予算や21年度当初予算などを中心に動向を紹介する。

 一口に〝テレワーク〟といっても、その形態や目的は様々。代表的なものは、居住する住宅内でパソコンとインターネットを用いて業務を行うスタイルだろう。職場における〝密〟を解消し、通勤による負担や感染リスクの削減を図るものだ。しかし、既存の住宅において必要十分なワークスペースが確保されているとは限らない。

 そこで国土交通省は21年度予算において、「『新たな日常』への対応」の一貫として、「住宅団地等におけるコワーキングスペース等の整備によるテレワーク環境の整備に対する支援を強化する」と明記。併せて、「新たな働き方への対応についても、優良な性能を有する先導的な住宅・建築物の整備」についても支援する方針だ。

 また、20年度3次補正により創設された「グリーン住宅ポイント制度」でも、間接的にテレワーク対応リフォームを支援する。直接、ポイント発行の対象としてテレワーク関連の基準を設けるわけではないものの、付与されたポイントの使途として、「テレワークなど『新たな日常』に対応した追加工事」が含まれている。詳細は今後公表される予定だが、ワークスペース設置工事のほか、「音環境向上工事」も対象となる見込みだ。

全国的な普及へ向け

 こうした、従来の居住環境をハード面から改善することでテレワークを後押しする政策だけでなく、テレワークの普及や定着へ向け、社会的な働き掛けを行う政策も打ち出されている。

 総務省が進める「テレワーク普及展開推進事業」がその代表格だろう。21年度予算では2億6000万円が計上されており、前年度比1000万円増額された。20年度は「テレワーク・デイズ」の呼び掛けや先進企業の表彰、セミナー等の開催、地方の中小企業等へのサポート体制構築といった施策を実施。20年東京五輪に伴う都内の混雑緩和などを主目的の一つとしてきた事業でもあるが、テレワークの全国的な普及へ向け、引き続き予算を投じる。

 更に、同事業は「地方移住促進」の一環としても位置付けられている。テレワークを最大限活用すれば、所属する企業の立地にとらわれず他地域に移住することも可能。既にある程度人口動態の変化も見られているが、コロナ禍を受けた〝都市部から地方への人口移動〟と地域活性化を促したい考えだ。

 もちろん、テレワークの場所は自宅に限らない。総務省は同じコンセプトで、地方におけるサテライトオフィス誘致を支援するマッチング事業に1000万円を計上。地方の課題である〝就業場所〟の確保へ向け、地方自治体とサテライトオフィス提供企業とのマッチング機会を設ける施策で、事業目的に「地方へのヒト・情報の流れの創出を更に加速」と明記されている。

 このほか、通信分野を所管する総務省として、「デジタル活用環境整備」分野においても「地域におけるテレワーク拠点の整備」(総務省資料より)を進める。20年度3次補正と21年度予算の合計で13億2000万円を確保した。居住地域だけでなく、年齢や障害の有無なども含めたデジタル格差の解消を図る施策だが、事業の一環としてサテライトオフィスの整備促進が見込まれている。

地方創生や労務管理でも

 更に、「地方創生」のためのテレワーク推進という姿勢を明確に打ち出しているのが内閣府だ。「地方創生テレワーク推進事業」として新規に1億2000万円の予算を計上。テレワークの推進を通じて地方への新たな人の流れをつくり、東京圏への一極集中是正を図る。

 また内閣府は前年に続き「沖縄テレワーク推進事業」も実施。既存施設の改修によるテレワーク施設整備等を支援し、県外企業の沖縄進出などを促す。コロナ禍により、観光産業の比重の高い沖縄経済は大きな打撃を受けているものの、新たな分野の事業者による既存不動産ストックの活用にも期待がかかる。

 直接的なハード整備に関わるものではないが、厚生労働省もテレワーク関連の予算を大幅に拡大。「『新しい働き方』に対応した良質な雇用型テレワークの導入・定着促進」の経費として、前年度の約9倍に当たる28億円を投じる。コロナ禍によるテレワークの急拡大を受け、雇用型テレワークについて労務管理の適正化を図る施策だが、よくも悪くも昨春以降「必要に迫られて急ぎ導入した」という企業は多いため、労務関連の体制整備は必須だろう。

 この課題については、政府の規制改革推進会議も20年12月に対応を提唱している。「テレワークの普及・促進のため、テレワークの特性を踏まえ、労働時間管理、作業環境の整備や健康管理等の労働安全衛生等も含めた労務管理全般に関する事項を充実」(同会議資料より抜粋)させることなどを目指し、20年度中に「テレワークガイドライン」の改定および関連措置の実施を行うこととしている。

 実際のところ、特に中小企業においてテレワーク下の労務管理は悩ましい問題だ。国のサポートなどによりそうした課題の解決が進めば、テレワークの更なる普及にもつながるだろう。

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 このように、21年度は国による多様なテレワーク施策が加速化する年になる。事業者にとっては、住宅の新築や改修のほか、テレワークに対応したオフィスの提供など、幅広いビジネスチャンスにつながる年にもなり得るだろう。行政の支援や補助を有効活用すると共に、市場のニーズも見極めながら的確に対応されたい。