マンション・開発・経営

専門家に聞く――〝アフターコロナ〟(4) 購入意欲の強さ実感 日本財託グループ代表 重吉勉 氏

 新型コロナウイルス感染症における緊急事態宣言は解除されたが、まだ第2波、第3波の襲来が懸念されている。このコロナ危機は不動産投資マインドにどのような影響を与えているのか。個人投資家向けに東京23区の中古ワンルームマンションの販売とその管理を手掛けている日本財託グループの重吉勉代表に聞いた。(井川弘子)

 ――コロナ危機の第1波に対する御社の対応は。

 「社内体制としては、3月下旬に在宅勤務に切り替えた。当初は6月から切り替える予定で準備をしていたが、緊急事態宣言が発令される可能性が濃くなり、緊迫した状況下で前倒しした。従来からリモートワークをしていた営業部門を除く事務職180人全員分のパソコンとWi-Fiルーター、スマートフォンを用意した。ただ、他社も同じ状況だったため機器をそろえるのには苦労した」

 「管理会社としては、約8200人のオーナーに対して、毎月決まった日に家賃を送金することが何よりも大切だ。それを担う部門の社員が1人でも罹患すると業務が滞ってしまう。それを避けるために、入金・送金の部門からいち早くリモートワークを導入。更に、いざというときには他部門の社員が代行できるような体制を構築した」

 ――所得が減少し、家賃の支払いに苦慮する入居者もいるのでは。滞納発生状況は。

 「5月に入ってから入居者からの問い合わせが出始めた。家賃を補助する国の制度である『住居確保給付金』の申し込みは、これまでに220件あったが、目立った滞納はない。また当社は住居系がメインであり、店舗・事務所の管理物件は少ないが、その中で数件は支払いに関する相談があった」

 ――一般的にコロナ収束後の社会は将来不安が増すと思われるが、現状の投資家のマインドは。

 「個人投資家の取得意欲は非常に強い。既存顧客からも新規顧客からも問い合わせが増えている。『今すぐ買いたい』『これから価格が下がればぜひ買いたい』という2つのニーズがある。物件を手放す人も増えてはいるが、他社も仕入れを活発化しているため、物件価格は全く下がっていないのが現状だ」

 ――経営者としてコロナのようなリスクを想像していたか。

 「〝危機というものは顔色を変えてやってくる〟という格言は常に頭にあった。90年代のバブル崩壊や、その後のリーマンショック、東日本大震災、そして今回のコロナのように。それぞれ〝顔色〟は異なる。次にどのような顔色で襲ってくるのかは分からない。だからこそ、会社としてストックビジネスを厚くしておき、また、ある程度の期間は耐えられるように内部留保があることも重要だ」

 ――現在の不動産市場をどう見ているか。今後、住宅着工戸数が減少する予想もあるが。

 「ワクチンが開発されてもV字回復はないと思う。以前から東京五輪後には不況が来ると言われていた。不動産業は14年周期で不況が来るからだ。22~23年頃に来ると言われていた不況がコロナで早まったと考える。数年かけて少しずつよくなっていくのだろう」

 「これまでは増大する訪日外国人の需要を見込んだホテル建設ラッシュで、都市部の地価を釣り上げていた面がある。それがパタッとなくなった。夏にかけて売りものが出てくるだろう。地価は3~4割下がると思う。これからその値下がりした土地をディベロッパーが購入し、商品化するので、2~3年後には住宅着工は増えるのではないか」

 ――コロナ第2波、第3波が懸念され、収束まで長引く可能性がある。セミナーや商談などオンライン化の手応えは。

 「感染リスクを避けるため、定期的に開催してきた投資セミナーをオンラインに切り替えたところ、参加(視聴)人数は従来よりも増えた。ただ、その後の面談や契約へと進む割合は減少した。情報を幅広く伝えるという意味ではオンラインセミナーは効果的だ。今後は、この参加者の増加を、どう成果につなげるかが課題だ」

 「各社員が工夫し、リモート営業の効果も出始めている。例えば、管理を請け負っている1棟マンションのオーナー(地方在住)に対して、ドローンを使って外観の状況を撮影し、オンラインでの商談を経て外壁工事などの大型受注が取れている。これまではオーナーの元に訪問して商談していたが、意外にもリモートでスムーズに交渉・説明ができているようだ。今、こうした成功体験を社内で共有しているところだ」