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賃料は上昇、更新目立つ 春の賃貸市況(上) コロナ禍で不急の転居控え増加

 20年春の賃貸市況(19年12月から20年3月)は新型コロナウイルスの感染拡大により、顧客動向と不動産会社の取引に変化をもたらした。結果として受け止めるには実態が定まらず、現在進行形の事象として賃貸現場の動向に注視していく必要がある。新規問い合わせの減少、商談の取りやめ、更新契約の増加、新たな対応など、今号では春の賃貸市況の特徴を振り返り、次号で各社のコロナ対応について紹介する。

 アットホーム(鶴森康史社長)の不動産情報ネットワークに登録・公開された、全国主要都市における20年3月の居住用賃貸マンション・アパートの募集家賃動向によると、首都圏の一部マンション・アパートで下落した以外はおおむね上昇した。名古屋市、大阪市、福岡市がマンション・アパート共に前年同月を上回る傾向を示し、東京都のマンションは23区が全面積帯(シングル向け30m2未満、カップル向け30~50m2、ファミリー向け50~70m2、大型ファミリー向け70m2以上)で上昇した。

 同調査を分析するアットホームラボ(株)の磐前淳子氏(データマーケティング部長)は、新型コロナウイルスが感染拡大した3月末までを対象とした同調査について募集家賃に影響は見られなかったとした上で、「建築費や人件費の高騰を背景に、どのタイプでも上昇しており、全国的な傾向」と指摘。特に人口流入が進む都市部ではより顕著だとし、「新築物件の募集家賃は上昇傾向。既存物件も更新時に賃上げ賃下げの動きが働くことから、募集家賃と成約賃料との乖離は低い」と説明する。

 エリア別では、東京23区のマンションの平均家賃はカップル向け13万4436円(前年同月比6.6%増)、ファミリー向け19万707円(同5.2%増)と前月比・前年同月比共に上昇。15年1月を100とする平均家賃指数も全面積帯で最高値となった。また、東京23区のアパートもマンション同様に全面積帯で前年同月比上昇。特にカップル向け、ファミリー向けは平均家賃指数も最高値を更新し、「好立地のアパートニーズと、マンションに対するコスパの両面から選ばれている。新築時、更新時に賃上げの動きが進んでいる」と磐前氏。首都圏では神奈川県、埼玉県のカップル向け、ファミリー向けの上昇が顕著であり、「都心アクセスの良さと割安感から人気がある。人口動態の変化を見ても、例えばファミリー層は東京23区から埼玉県への人口流入率が高い」(磐前氏)と指摘する。

変化への工夫も それでは、不動産現場はこの春繁忙期ををどう受け止めたのか。アットホームが地場の不動産仲介業者に四半期ごとに実施する景況感調査(20年1~3月。下記参照)によると、3月時点の取引でも新型コロナの影響が既に現れているようだ。磐前氏は春の賃貸市況の全国的な特徴として、(1)更新増加による満室、(2)未内見で契約、(3)不要の転居の取りやめ、(4)物件引き渡し・入居時期の遅延、(5)柔軟な対応――の5点を挙げる。

 (1)の更新増加では、入居者の入れ替えが少ないため、人気物件が空室となるとウェブ情報だけで即座に申し込みする動きが見られたという。リクルート住まいカンパニー「スーモ」編集長の池本洋一氏も空室率の低さを指摘する。マンション販売価格の高騰と賃料上昇による住み替え層の限定化に触れ、「住み替えの検討タイミングのピークが前倒しし、早めに動く人が増加した。学生の場合、半数近くが推薦などで受験期を前倒しして進路を決めている。大学4年生の退去と新入生の入居を見越し、早めの集客を心掛けている不動産会社もある」と説明。いえらぶGROUP(岩名泰介社長)もまた、「クライアントの声では更新の比率が高かった。異動や学校の開始時期がずれるなど、引っ越し動機となるものが減少したことも一因ではないか」と分析する。

 (2)、(3)について磐前氏は進学や就職による上京など時限の決まった転居以外の新規問い合わせが減少し、グレードアップのための転居は自粛する傾向があったと指摘。会社からの補助金が出なくなったことによる契約キャンセルや転勤時期を春から延期する例に触れ、「コロナの感染拡大によって東京五輪の開催延期などが決まった3月中旬以降、不要不急の外出は控えたいというユーザー動向が現れている」と説明する。(4)、(5)についても建築部材の納期遅延による物件の引き渡しや入居時期の遅れが発生したと共に、「やむを得ず転居する顧客に対しては、公共機関を利用せずに自宅まで車で送迎する案内をした」(東京都港区)など、外出を不安視する顧客に柔軟な姿勢で取り組む不動産店の取り組みに注目する。