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社説 宅建士、名称変更から5年 更なる信頼向上へ新施策を

 15年4月1日施行の改正宅建業法により、従来からの宅地建物取引主任者が「宅地建物取引士」という名称に変わった。来年で満5年となる。名称変更以上にインパクトが大きかったのは改正法で新設された15条と15条の2である。15条(業務処理の原則規定)では、「宅建士は購入者などの利益の保護に資するよう、公正かつ誠実に事務を行わなければならない」とされた。更に15条の2(信用失墜行為の禁止)では、「宅建士はその信用または品位を害するような行為をしてはならない」とされ、その行為は職務として行われるものに必ずしも限られず、私的行為も含まれるという解釈まで付いた。

 なぜ、この2つの規定が重要かといえば、例えば〝囲い込み〟など会社の営業方針や個々の業務についての指示が消費者(購入者や売主)の利益に反する、もしくは宅建士としての職業倫理に反すると考えたときには、宅建士は法律上はそれを拒否しなければならないことになったからである。

 このことは改正法施行当時、業界団体が頻繁に主催した研修会で講師の弁護士などからも説明されていたことから、宅建士の意識改革は着実に進んでいるものと思われる。ちなみに、宅地建物取引士試験の受験者数の推移を見ると、改正法が国会で成立した年(14年6月)から6年連続で増加している(今年は昨年比3.1%増の22万人超が受験)。これは、士業となった宅建士の資格としての魅力向上、社会的な知名度向上が背景にあるものと考えたい。今こそ、国民の宅建士に対する信頼を更に向上させる好機であり、そのための新施策を検討すべきである。

 例えば、宅建士は本来なら所属する不動産会社とは切り離された資格とするべきではないか。参考にすべきは米国だ。米国の不動産エージェント(仲介業者)は州ごとのセールスパーソン資格を取得後、ブローカー(不動産会社)に所属しなければ仕事ができない決まりだが、あくまでも独立した自営業者である。だから、エージェントは顧客の信頼確保のために不動産会社ではなく、あくまで顧客の利益確保を優先して働く仕組みになっている。不動産のように個人にとって大きな資産を扱う仕事は、顧客の利益確保を最優先する仕組み(法制度)になっていてこそ、真の意味で国民の信頼を得ることができるし、社会的地位向上につながる。

 日本の宅建士制度を一気にそこまで変革することは無理であるから、まずは宅建士会(仮称)を各県ごとに設立する。そして、士業としての法的独立性、倫理意識の更なる向上、国民の信頼確保と社会的地位向上を目指して活動を行っていく。将来的には各県に置かれた「宅建士会」が所属宅建士を監督し、信用失墜行為などを行った宅建士を罰する権限をもつようにする。それが流通業界に対する国民の信頼を飛躍的に高めることになると思う。