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社説 全住協、「後見アドバイザー」公開の意義 不動産業の社会的信頼強化へ

 高齢化が進む日本では今後、取引の相手が認知症などで判断能力が十分でないと懸念されるケースは珍しくなくなる。トラブルに発展しないよう、不動産取引の専門家としてしっかりとした知識習得が不可欠だ。認知症患者数が25年に730万人といわれる時代を控え、不動産業界はどう対応すべきだろうか。

 全国住宅産業協会(全住協)は今年から、「不動産後見アドバイザー」資格講習会の一般公開を始めた。これは、超高齢社会に備え、認知症患者や障害者など判断能力に不安がある人の不動産取引について、本人や後見人に対して適切なサポートやアドバイスを行うための知識を習得する場。後見人になることを推奨しているものではなく、あくまでも不動産の専門家という立場からアドバイスを加えつつ、超高齢社会における我が国の不動産取引の円滑化に寄与することを目的としている。2日間の講習を受け、最終日のテストに合格すると資格が付与される。同講習会は、市民後見人を養成している東京大学との共同研究のもと、同協会会員向けとして17年にスタートした。これまでに東京と大阪で全4回の講習会を実施し、受講者数は430人に上る。注目すべきは、今回から会員外の不動産事業者や行政担当者、福祉関係者、一般市民などにも門戸を広げたことだ。重要なことは高齢者をサポートする人たちが互いに協力し、信頼し合える土俵を社会の中に構築することである。

 判断能力が不十分な人が不動産の売買や賃貸、管理などの契約行為や手続きを行った場合、そのまま契約が締結されたとしても後から無効になる可能性がある。そのため、不動産事業者は一般的にこうしたリスクを懸念し、取引を避けてきたきらいがある。しかし、これからはそうした〝守り〟の姿勢だけを貫いていたら業界として社会に貢献できない。高齢社会を迎え、今後は老人ホームへの転居費用を捻出するための自宅やその他不動産の売却などの取引が増加する。後見人制度だけでは対応しきれないケースもある。そうした事態に備え、本人が元気なうちに家族信託契約を結んでおくという選択もある。更に近年は、自宅リースバックやリバースモーゲージ型住宅ローンなど高齢者の不動産を活用する新たな商品も登場している。高齢者の貴重な財産がトラブル化することだけは絶対に避けなければならない。

 そうした社会にあって、不動産会社が果たす役割は大きい。自社のビジネス拡大という視点だけに縛られるのではなく、高齢者をサポートする様々な関係者とチームワークを組み、情報を共有しながら最善の道を見いだすという姿勢に徹することができれば、不動産業界に対する社会の信頼が高まる。

 今回の全住協による資格講習会の一般公開は、その意味で不動産業が大きな変化を遂げる一大好機になるのではないだろうか。