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大言小語 ひとを想う言葉

 「はじめに言葉ありき」。では、終わりにあるものは?人類は言葉を手に入れることで、他の動物とは全く異なる進化を遂げた。しかし、人間は最後まで言葉を使い続けることができるのだろうか。

 ▼混み合う電車で人を押しのけ、すり抜けるときでさえ声を掛けなくなった日本人。隣近所でも、せいぜい朝のあいさつ程度だ。〝スタバ〟でよそ様の話が耳に入るが、よく聞けば話が噛み合っていない会話のなんと多いことか。豊かな人生経験者である高齢者同士なのに、一方が一方的にしゃべりまくる光景はなんとも哀しい。若者の言葉の乱れは先刻承知だが、乱れているのは、新たな美しい言葉が生まれるための混沌期かもという希望がある。

 ▼不動産業界では今、高齢者の自宅を買い取って、その後は自宅として住んでもらう「リースバック」事業が脚光を浴びている。最大手の会社では相談件数が月に1000件を超えている。高齢者の資金需要の旺盛さが背景にあるわけだが、住み慣れた自宅を手離す心境を思えば、「高齢者や家族の身を想う言葉」による誠実な協議があってこそ成り立つビジネスだ。

 ▼世界に先がけ、人口減少や高齢化が進む今後の日本は、勝ち組と負け組を分けるのではなく、誰もが幸せになれる「全体協調社会」への移行を志向しない限り、「はじめに言葉ありき」だった人類の誕生と、その後の進化の意義を裏切ることになる。