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社説 改正民法に対処するには 契約中心時代への準備を

 民法(債権法)の改正がついに行われた。民法制定から120年ぶりの大改正だ。中間試案、要綱仮案など様々に審議され、出来上がった改正民法。施行は20年に予定されている。

 今回、多くの項目が改正されているが、それらを通じているのが「契約を中心とした思考様式の移行」(吉田克己早大大学院教授)だ。例えば、現在規定している瑕疵担保責任は売買の目的物に隠れた瑕疵があった場合の規定だが、新しい民法では、瑕疵という言葉から来る感覚を排除するため、「引き渡された目的物が契約の内容に適合しないものである場合」となった。物理的な欠陥しか思い浮かばない可能性がある世界から、契約自由の原則により、その契約に適合しないものの責任を問う世界への転換だ。「これまで以上に契約の中味、合意の内容の明確性が重視される」(伊豆隆義弁護士)。また、消費者保護の原則も貫かれている。

 不動産業に携わる者としてはどのように対応すべきか。まずは、敵を知ることだ。不動産業に特化した書籍やセミナーなどで、知識を得ることが大事だ。

 そして、本来的に重要なのは、現在使用している売買・賃貸契約書などの見直しだ。とにかく、契約中心社会に沿った民法となるので、今後の判断基準も契約条項が中心となる。不動産事業者であれば、所属している業界団体で契約書の見直しが進められている。新しい書式に対応できるよう、勉強会などに積極的に参加し、後れを取らないようにすることだ。

現状の実務に近い

 民法は私法の根幹法で、私人間のルールの大原則だ。その改正だから、これまでのルールがガラリと変わるという認識を持つ人も多いだろう。確かに改正項目は多いが、あまり臆することはない。試案が学者から実務者など様々な視点から見直されているうちに、現状の実務ルールに極めて近くなってきた。先程挙げた瑕疵担保責任についても、瑕疵という言葉はなくなるものの、責任を負う過程や結論については、契約実務や訴訟で既に取り入れられている。また、敷金の明文化や賃貸借終了時の原状回復義務の範囲も、判例などでこれまで目にしたものを逸脱するものではない。

 既に、民法改正を睨んで、これまで進出してこなかった家賃債務保証に参入する信販会社も出てきた。保証制度が改正され、個人連帯保証について極度額の設定など、厳密に保証形式を問われることになり、保証会社などの法人による保証の利用が増加するとの見込みだ。改正民法により、不動産事業者の負担は確かに増えるが、契約をしっかり作り込み、相手方が納得すれば、法的責任を問われることは少なくなる。改正民法を怖がらず、これまで通りの実務を契約に生かす――不動産事業者の知識と意気が問われる、新しい未来がそこにある。