総合

社説 マンション市場再構築のとき 実需向けに戦略的な取り組みを

 用地や建築費などのコストアップで平均価格が5500万円まで高騰した首都圏新築マンション。売れ行きはインバウンドなどの投資ブームが去った一昨年来、長期低迷から抜け出せない。その一番の要因は需要者の取得能力(実質年収)と価格のかい離である。一般需要者には「高くて手が届かない」「購入をためらう」状態となり、〝高嶺の花〟となったのだ。実際、多くの見込み客を集めた大型物件でも、最近では即日完売する事例はほとんどなくなった。マンション業界にとって大きな正念場の到来である。

 ふり返ると、市場の変調は14年春、消費税率の引き上げに始まった。家計の実質所得が減少する一方で、税金を含めた価格が上昇。低金利と住宅ローン減税などの政策支援があるにしても、今日の事態を招くことは容易に想像できたはずだった。だが、湾岸タワーマンションや都心部の富裕層向け物件の堅調さの影に隠れ、その時既に不振だった郊外物件の状況はあまり表面化しなかった。

 市場にとって最大の需要者は実需層である。頑張って初めてマイホームを取得する一次取得者や、手持ち物件を買い替えてより便利なところを目指す二次取得層である。分譲マンションストックが600万戸を超え、大都市圏では中古マンションが流通市場の主流を占めるようになったが、こちらも市場をけん引するのは圧倒的多数の実需層である。

 ところが、価格高騰で実需層はないがしろにされ、そのツケが今回ってきたということだろう。市場を活性化させるには一般需要者の取得能力と価格とのかい離を縮小していくしかない。いかに価格を抑制して魅力的な商品をつくり上げることができるかである。これが市場を再構築するために業界に突き付けられた課題だ。

健全とは言えない状況

 今は幸い低金利が続き、これが住宅ローンで購入する人にとって一つの好条件ではある。だが、実質年収が伸びない現状では、購入可能価格は「年収の5~6倍」までだろう。現在の平均価格(5500万円)物件を購入するには年収が最低900万円程度ないと難しい。これでは大半の需要者が自力購入を諦めざるを得ない。こうした状況は健全とはいえない。

 では、どうすれば打開できるのか。第一は需要者の取得能力に近づけるための戦略的な価格政策を取ることである。とりわけ実需向けで用地、建築費を含めたコスト抑制のための事業手法の見直しや再点検が欠かせない。停滞の著しいエリアでは価格調整も必要になるだろう。そうした努力が新築マンション市場を持続させ、ストック市場を活性化させることにつながる。事業者側に求められるのは、価格、商品企画の両面で魅力的な実需向け物件を供給し続けていく、戦略的な取り組みである。