政策

社説 「AI」に負けない仲介業 「人間性」高める研鑽こそ必要

 16年は、不動産業界にも「AI(人工知能)」を取り入れたサービスの提供が数多く見られた。その多くが、参考となる物件価格や賃料データ収集に役立つもので、「市場の透明化」にもつながる動きだ。AIが行う膨大なデータ処理力の高さは、人間以上であることに間違いはない。今後更なる技術革新を経て、どのようなAIが誕生していくのか世間の大きな関心事の一つである。

 数年前、英国の専門家が、AIの影響で将来的になくなるであろう「仕事」を予測として公表したが、不動産仲介業もその中に含まれていた。「単純労働作業」の場合は機械にとって代わられることもあろうが、いくら優秀な知能であるとはいえ、不動産のプロの仕事を機械が行うことができるのかは疑問だ。「方程式」だけではない、人と人のつながりによる業の営みがそこにはあるからだ。

 ただ、単なる物件案内といった単純な作業だけに力点を置いた仲介業だと、加速度的に進むAI技術の進展により、それに仕事を奪われてしまうことになるだろう。プログラムの組み合わせだけでは導き出せない、湧き出る独自の発想、価値をどのように提供できるか。AIにはできない役割が、これからの仲介業には求められることになる。

更なるスピードを

 この1月、各地で業界団体の新年会が開催されたが、既存住宅流通活性化の重要性を指摘する声が例年以上に大きかった。仲介業者の期待は大きく、また、昨年の宅建業法一部改正でインスペクションの説明義務が導入されたように、国、業界ともに「本気度」が増してきたようだ。ただ、まだまだスピードは遅い。人間が創り出すAIは、まさに日進月歩の勢いで進展している。新年だけの掛け声で終わることのないよう、着実で力強い取り組みを行っていかなければならない。

 インターネットを軸とした「個人間取引」が脚光を浴びつつある。個人同士で物件の取引が完結すれば、もはや仲介業者の存在意義はなくなる。個人では分からない不動産のプロとしての知識、アドバイス、そして双方を調整する力。決して低くはない手数料をもらうからには、仲介業者がそれ相応の仕事をすることは当然だ。

 安全な取引環境、安心感のあるサポートを個人に提供するには、仲介業者個々人が「研鑽」を積むしか方法はない。不動産のプロとしての矜(きょう)持を持ち、金勘定だけではない一人ひとりのことを考えた取引ができるかどうか。不動産の幅広い知識の習得は言うまでもなく、「人間性」を引き上げるための研鑽こそ、機械にとって代わられることのない仲介業者になるためには必要なことだ。