政策

人口減少問題への対応 野村総研顧問 増田寛也氏に聞く 若者の地方流出を止める

 人口減少、少子高齢化は住宅・不動産業界にとって最重要テーマといってもいい。にも関わらず抜本的対策としての本格的議論はあまり進んでいない。そこで、同問題について強い警鐘をならす野村総合研究所顧問の増田寛也氏に話を聞いた。

 ――問題を放置していると本当に国が瓦解してしまう。そんな危機感を抱かせる一つが人口減少・少子高齢化問題ではないか。

 「私が最初にそれを実感したのは岩手県知事をしていた時で、小・中学校の統廃合だ。子供の数が一学年で数人しかいない。この子たちが成人した時の成人式を思い浮かべると、周りにいる大人たちの方が多い。そうした危機感はどの自治体も感じている。だから、40年には自治体の半数が消滅してしまうというショッキングな発表に対しても納得してしまっている」

働き方にゆとりを

 ――具体的対策は。

 「秋をめどに各省横断の〝まち・ひと・しごと創生本部〟をつくって担当大臣も置いて、これから本格的な対策が打ち出されるのだと思う。ただ、今後50年間で20~30歳代の若い人たちの人口が、当然女性もだが半減してしまうから、子供の数を増やしていくのは、相当難しいことになる」

 ――最低限実施すべき対策は。

 「まず企業にお願いしたいことは、若い人たちの働き方を変えていく必要がある。つまり、毎日夜遅くまで拘束してしまうような働き方はそろそろやめて、生活にゆとりが持てるようにしなければ、出生率は上がらない」

 「それとも関係してくるが、地方の若い人たちが、東京に出て東京の大学を出なければいい会社に就職できないという、従来型の成功物語から解放される必要がある。地方で就職することもいいことだと思える、そういう社会に変え、若い人たちを地方にとどめることがゆとりのある生活につながって、出生率を上げることになる」

 「こういうことを言う理由は、今の団塊世代が地方から東京に出てきて東京にとどまった先輩世代だが、彼らの老後はどうみても豊かにはなりそうもない。なぜなら、介護が成り立たない。いまでも多くの介護待機老人がいるが、25年から30年にかけてその数が10万人以上になると思う。東京は地価が高いので介護施設がそんなにはつくれない」

 ――つまり、これから若い人が東京に出てきても豊かな老後は描けないと。

 「そうだし、既に東京に来ている人たちで、そろそろ定年を迎えようかという世代がUターンしていくことも必要だ。要するに地域の魅力をどう作って、Uターン、Iターンを促していくか。いわば、人口逆流作戦が必要になる」

〝お試し〟に賛成

 ――U、Iターンによるふるさと回帰を促すためのアイデアとして、自宅を5年間だけ定期借家権で貸し、地方に〝おためし移住〟をしてみようという提案を、今年4月に発足したワープステイ推進協議会という団体が提唱していますが。

 「アイデアとして、なるほどと思った。実際に行ってみなければ、自分に合った環境かどうかは分からないからだ。ただ、実効性を上げていくためには、移住する側だけの問題でもなく、受け入れ側の地方も自分たちがどういう人材を求めているのかという点をもっと明確にして熱意をもって呼び掛けるというスタンスが必要だと思う」

 ――そのために、地方はどういうまちづくりをしていくのかという〝ビジョンづくり〟をしなければいけないということですね。

 「そうした魅力づくりに成功すれば、高齢者だけでなく、若い人たちを呼ぶことも可能になる。ワープステイ構想に期待したいのは、高齢者の移住経験が役立つように、東京に戻って来た時は、東京にいる若い人たちの地方への移住も促すという努力もしてもらいたいということだ」

   (聞き手・本多信博)

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