政策

社説 白書に見る住宅政策のヒント 〝暮らし方〟意識した展開も

 今年の国土交通白書が7月上旬に発行された。「若者の暮らしと国土交通行政」がテーマだ。若者世代がどういう暮らしを求めているのかは、これからの国の形を考える上での重要な要素となる。

 白書によれば、第1次ベビーブーム世代(1947~49年生まれ)が、20~30歳代に経験した経済成長率の平均は6.59%。それに対し、第2次ベビーブーム世代(71~74年生まれ)が同じく20~30歳代で経験した平均経済成長率は0.83%だ。今、40歳前後の世代は、希望を胸に社会に飛び込んだものの、「成長」をほとんど実感できないまま壮年期を迎えようとしていることが分かる。

「低成長」大きく影響

 また、「今後の収入や資産への不安が大きい」と答えた割合は、30年前の30代ではわずか10%だったのに対し、今の30代は39%にも達している。こうした状況が、住まいとの関係に大きな影響を及ぼしている。

 83年には40歳未満の住宅所有割合が42%だったのに対し、それから25年後の08年は28%と大きく低下している。おそらく、住宅の所有意欲はそれほど変わっていないとすれば、そこには「所有」を阻む大きな経済要因があるものと推測できる。まさに経済の低成長化による所得の伸び悩みだ。

 第1次ベビーブーム世代から、「気の毒な目」を向けられそうな調査結果が並んだが、その一方「生活満足度」については、35年前の30代よりも現在の30代の方がアップしている。今の20代は、更に高い満足度を示している。実際、今の若者達の様子を観察しても、「悲壮感」は感じられない。

コミュニティを重視

 住宅に対する所有意欲も、もしかしたら昔の世代ほどは執着していないのかもしれない。もともと物質的には豊かな社会で育ってきているから、「持つ」ことよりも、「住む」こと、あるいは「どう暮らすか」ということの方に重きを置いている様子もうかがえる。

 ドライと見られがちな若い世代が意外にコミュニティの重要性を認識し、様々な交流が生まれるシェアハウスが人気を集めているのも、「ライフスタイル」重視の表れだろう。不安定な時代だからこそ、地域や近隣住民との「つながり」を求める人間本来の防衛本能が目覚めてきているのかもしれない。

 国土交通省は、多世代が幸せに暮らせる連携した住まい方の提案として、「スマートウェルネス住宅」を新たに政策展開していく方針だ。そこで、「心の豊かさ」といったキーワードが我が国の住宅政策に正式に取り入れられるのだとしたら、ようやく〝住文化〟についての議論が始まるものと期待したい。