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あの世で競い合い

 本コラムで落語「芝浜」について書いたのはもう2年前。やはり慌ただしく、騒々しい年末にはこの噺が似合う。その「芝浜」を得意とした立川談志師匠が、先日75歳で亡くなった。

 ▼戦後の落語界をリードしていた桂文楽、古今亭志ん生、三遊亭圓生が亡くなり、次の世代の旗手だった古今亭志ん朝が急死。そして、談志もいなくなったこの世の落語界。静かなブームはあるものの、屋台骨を背負えるだけのスターの存在がなく、先の見通しは必ずしも明るいとは言えない。

 ▼名前を挙げた師匠たちは皆、個性があった。文楽は一言一句おろそかにしない正確さと、それに比した面白さを持っていた。志ん生は逆に、破天荒な芸風とアドリブ、そしてそれを裏打ちする基本があった。圓生には色気があった。志ん朝は志ん生の息子ながら、芸風は文楽に似て、しっかりとした噺と志ん生譲りの小唄など枝葉の部分の充実が特筆されていた。談志は持って生まれた華やかさと行動力、しかし、噺は基本をまずしっかりと持っていて、洒落た崩しをしていた。

 ▼もう生では聴けないが、あちらの世界で、また名人たちが競演し、悪口を叩き合いながら更に腕を上げていることだろう。それをすぐにでも聴きたい気持ちが小子にはあるが、まだ少しはこちらの世界に居て、存在すら知らない『噺の天才』の出現を今は待つとしよう。