社説「住宅新報の提言」

賃貸居住安定化法案への疑問 追い出し規制部分は削除を

 賃貸居住安定化法案が今国会で成立するのかどうか、賃貸住宅管理業界にとっては最大の関心事となっている。同法案は2月22日に衆院国土交通委員会に付託されたが、その後の審議はまだなされていない。サービス付き高齢者向け住宅制度を創設する高齢者住まい法の改正案など予算関連法案(歳出面)が先議されることになるため、情勢は不透明だ。
 中小不動産業者団体の全宅連(全国宅地建物取引業協会連合会)、全日(全日本不動産協会)ともに同法案に対しては慎重な審議を要請している。業界が特に警戒しているのは、滞納家賃に対する悪質な取り立て行為を禁止している部分である。禁止されるのは家賃取り立てに係わる暴力的行為や嫌がらせ的行為だが、刑法では処罰できるかどうかが明白ではない「人を威迫し(脅迫罪には至らない)、または人の私生活もしくは業務の平穏を害するような言動」があったかどうかがポイントになる。
 <威迫>は法律専門用語で、例えば面会を求める際に2人で訪問すること自体は威迫に該当しなくても、10人で訪問すれば威迫になるらしい。このように微妙な概念だが、違反した場合の罰則は2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその併科と厳しい。

貸し主側に無用の混乱

 典型的な禁止行為として「鍵の交換」「動産の持ち出し・保管」「夜間・早朝の督促」と「それら行為を予告すること」が具体的に列記されている。これらを見ると、鍵の交換は確実に刑事罰が科される。動産持ち出しも刑法違反だし、民事上は「自力救済」で不法行為(民法709条が成立)となる。
 このように現行でも処罰対象となる行為を改めて法律で禁止することは貸主側に無用の混乱を招き、通常の取り立て行為さえも阻害することにならないか。結局、督促・訪問の時間帯が適切だったかどうか、威迫行為の予告があったかどうかが問題になりそうだが、その判断はまさに条文にもあるように「社会通念に照らして」ということになる。ということは、法律というよりも「社会的常識」の問題であろう。
 同法案には他に、(1)家賃債務保証業の登録制度、(2)家賃等弁済情報データベースの登録制度という2つの柱がある。これらの規制は、今後の賃貸住宅管理市場の育成に基本的には必要な制度とみられるため、悪質な取り立て行為の禁止部分を削除して成立させることが望ましいのではないか。
 ただ、この取り立て行為の禁止条項が盛り込まれた大きな背景として、一部の家賃保証会社などによる強引な取り立て行為が現実に行われ、社会問題化したことも事実である。賃貸住宅業界はその点については、一部業者らによる行為とはいえ、業界全体に対する信頼を揺るがしかねない重大事件として受け止め、自主的対策を講じていくべきである。