不動産キャリア 新しい地図 ― 未来を描く7つの指針 ― 第2回

競売主任者 ADR調停人 東住協土地活用プランナーRSP協会
宅建士になった、その先は?
AIが台頭し、社会構造が変わりゆく中で、不動産業界に求められる人材像も大きく変化しています。単なる「資格保持者」ではなく、時代の変化を読み解き、顧客の人生に寄り添える真のプロフェッショナルへ。
本連載は、不確実な未来を乗り越えるための「新しい地図」。全7回で、あなたのキャリアデザインをサポートします。

不動産ライター 大槻一敬

データリテラシー×不動産知識 ~数字を読み解く力が差を生む~

 「勘」や経験がものを言う。そう語られてきた不動産の現場に第二言語として「AI・データ」が加わりました。現地の空気感、管理状態、利便性といった定性的な視点に、数字で裏づけを与える力。それがデータリテラシーです。物件の購入・売却、賃料改定、リノベ投資の可否判断まで、意思決定の質は「どれだけ数字を読み解けるか」で大きく差がつきます。

1.市場分析、価格査定におけるAI活用の実際

 AIの強みは「大量の要因を同時に扱い、相対関係を見抜く」ことにあります。たとえば売買価格の査定では、従来の同一需給圏による事例比較に加え、築年、専有面積、駅距離、階数、角部屋、眺望、管理費・修繕積立金、耐震・断熱性能、周辺の学校区や犯罪発生率、将来の開発計画などをまとめて学習させ、価格モデルや需要を推定します。

 ポイントは「説明可能性」です。AIが出した価格は正解ではなく仮説です。「この物件は駅距離と日照の寄与が大きく、築古のマイナスはベランダ面積と眺望で相殺」など、査定根拠を言語化し、実地の目視確認で裏取りするのです。

 賃料改定でもAIは有効です。空室リスクと想定リーシング期間を同時に最適化し、「賃料を3%下げると埋まりが2週間早くなり、年間キャッシュフローは+X円」という「時間価値込み」の比較を可視化します。さらに、検索ボリュームや内見予約データを時系列で追えば、繁忙・閑散期の波形に合わせた価格の微調整も可能です。

 注意点はAIは過去のパターンに強く、構造変化の初動には鈍いということ。だからこ現場の経験と共にこれを活かすのです。

2.統計・データ分析スキルとは

 AIを活用した統計・データ分析スキルは、難しい数式をこね回す力ではなく、「数字から納得できる結論を出し、行動につなげる力」です。流れに沿って見ると、ぐっと分かりやすくなります。以下に、分析の流れの一例を紹介します。

①目的を決める

 まず「何を良くしたいか」を一文で決めます。例:稼働率を上げたい/売却益を最大化したい。

②問いに直す

 目的を「測れる問い」に変えます。例:賃料を±いくら動かすと、内見から申込までの日数は何日変わるか?

③データ収集

 必要な数字を揃えます。賃料、面積、築年、駅距離、反響数、内見数、申込率、退去理由、周辺相場など。

④見る(記述統計と可視化)

 平均・中央値で「ふつうの範囲」をつかみ、散布図やヒートマップで関係性と勾配を直感的に確認します。可視化は合意形成の共通言語です。

⑤再現できる形に残す

 データの定義、集計手順、判断ルールを文章化し、誰が見ても同じ結果になるようにします。

 つまり、「正しく比べ、納得感ある結論を出し、次の一手を迷わず打てる」ことが価値です。これが身につくと、現場での勘は「再現できる知恵」へと進化し、意思決定は速く、強く、説明可能になります。

 

※第3回「次世代不動産の価値創造 ~社会課題解決で差別化を図る~」 11月中旬公開予定

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