主要な不動産会社の24年3月期決算が出そろった。特に大手では好調な業績が目立っており、コロナ禍による悪影響からはほぼ脱したと言える。実際に、ホテル事業などコロナ禍で低迷していたセグメントの回復が業績をけん引したケースも見られ、事業を縛る大きな足枷(かせ)がようやく外れたことから、主な課題は建築資材費や人件費の上昇など、事業コストの高騰への対策に移っている様子だ。しかし各社のスタンスからは、収益の伸長と比較して、社内体制の改善に対する意識を感じられなかった点に懸念を抱く。
要因の一つは、「多様性に関する指標」、特に「女性管理職比率」への言及の有無だ。23年の内閣府令改正により、一定以上の規模の企業においては、23年3月期の有価証券報告書(有報)より、「女性管理職比率」「男性育休取得率」「男女の賃金の差異」の3要素の開示が義務付けられた。有報は例年6月に公表されるため、24年3月期の開示はまだ先となるものの、大手不動産会社における前年度時点での女性管理職比率は、連結ベースでもおおむね5~10%程度。民間の調査によると、23年3月期の開示企業平均は9%だったため、不動産業界の数字は平均と同程度かそれ以下のケースが多かった。例外はあるにせよ、少なくとも、他業界と比較して女性活躍の度合いが高いとは言えない。
加えて、女性役員の比率は「東証プライム市場上場企業は2025年までに19%」「30年までに30%以上」といった政府目標もある中で、拡大の動きは鈍い。にもかかわらず、各社が前期決算と今期方針を打ち出す中で、危機感を示す様子はうかがえなかった。もちろん、決算で開示する内容の中心は事業活動自体であり、その業績だ。極論を言えば、それ以外の内容は補足的な項目と考えられるかもしれない。しかし、例えば各社が熱心に語った株主への還元やSDGsへの取り組みと比べて、自社の「人材」がどのような状況にあり、今後どのような方針で活用していく考えなのかを積極的に内外へ示すことが、優先度の低い扱いのままで良いのだろうか。
この懸念は、女性の管理職・役員への登用に関する方針に限らない。男女の賃金の差異についても同様の傾向が見られるほか、社員全体の平均賃金の状況についても、比較的高水準ではあるものの、業績ほどには上がっていない様子が見て取れる。代わりに繰り返し聞かれたのは、「人件費の高騰」というフレーズだ。無論、建設や物流など他社への発注コストの上昇という意味ではあるが、この言葉を聞くたびに、「賃金の上昇が事業を阻害している」という認識が見え隠れする。一面の事実ではあろうが、好調な業績による利益を「人」へ投資し、あらゆる働き手の一層の活躍を促していく発想が、今後の不動産業界、ひいては我が国の発展には不可欠なはずだ。