不動産女性塾(北澤艶子塾長)は5月27~28日、51期目がスタートした大里綜合管理へ2度目の視察を行った。
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社員全員が労働時間の4割をボランティアに使い、これまでに250以上の地域貢献活動を行いながら、50年間1度も赤字を出したことがないという摩訶不思議な会社が千葉県大網白里市にある。大里綜合管理(石井俊晴社長)である。
「これからはCSR、企業は社会貢献事業に取り組むことが求められ、それが結果として利益を運んでくる」といった次元の話ではない。そもそも「働くということは人のために動くこと」という信念を社員全員で実践している会社である。256もあるボランティア事業の中から5つを紹介しよう。
「大網駅を安全で美しくする会」「大里学童保育サマースクール」「会社周辺の道路整備」「大網さくら道草刈りプロジェクト」「合唱交流会」。もちろん本業は不動産業である。管理を委託されている土地の所有者は多くが東京などに行っている不在地主だ。土地も不良資産が多く、相続があると「国庫帰属制度」を望む人たちが大半だという。
大網白里市の人口は現在約4万6800人。3年連続の減少。30年ほど前、創業者から会社を引き継いだ野老真理子会長は言う。
「企業は黒字にして税金を納める責任がある。なぜなら街に人手がない、財源が足りない。それなら私たちでやるしかない」
ユニークなのは社員全員がそのための地域活動を楽しんでいることだ。51期目のスタートに当たり「なんでも本気で楽しむ」を全社方針とした。今は社員の世代交代が進みつつあるが、不動産部の社員は7名のうち5名が65歳以上。「みんなこれまでの大里を支えてきてくれた人たち。草刈りの現場だけでなく、営業でもシニア組が力を発揮し、先頭に立ってやってくれている。ただひとつ、パソコンが苦手。普通より2倍、3倍も時間をかける様子を見て若い2人や他の部署の人たちが助けている風景もまた美しくありがたい」と野老氏は言う。そう、大里綜合管理の強みは何事も全社員が一つになって助け合うことだ。
野老氏が会社を今のような姿にしようと思ったきっかけは昔、不慮の事故で一人の社員の命を奪ってしまったことだ。「あのとき、もっと細かいことに気付く力があったら」という後悔は今も野老氏の胸の奥にある。様々な地域貢献活動はその〝気付き〟を磨くためのものでもある。駅の清掃一つとっても実際にやってみて気付くことがたくさんある。学童保育もそうだ。実際に小さな子供たちと接して初めてわかることがある。地域活動の一つ「大里子ども食堂」は普通とは違って、集まった子供たちが自ら料理を作り、それを家に持ち帰るという他にないスタイル。最近これまで作ったものを家で作って持ち寄る〝食事会〟を始めたら本当に大人顔負けの一品料理が並んだ。そこで分かったことは、「子供たちにはもっともっと出来ることがいっぱいある」ということだ。
100坪300万円
大網には荒れ放題の土地が多い。しかし雑草を刈り、整地し徐々に周囲をきれいにして住み始めた人がいた。すると隣地に住む人が出始め、今は14軒に増えた。小さなコミュニティ「みーなる・さっと」(実の成る里)の誕生である。「正直、これ以上はあまり来てほしくない」というのが住民たちの本音らしい。昔の〝お裾分け〟が復活し、病院の送り迎えもし合うようになった。不便だけれども心底素敵だと感じる地域に育っているからだ。1区画が100坪あって300万円。「土地は高くなる必要はどこにもない」――これも気づきの一つと野老氏は言う。
「真に大切なことに気付く」その大切さを知ったことは女性塾2度目の視察の成果だったのではないだろうか。