老朽化マンションが年々、社会課題としての深刻さを増している。高経年物件の増加自体は推測できていたものの、居住者の高齢化や管理不全等が想定以上のリスクとして顕在化していることも一因だ。長期にわたる適正なメンテナンスの実現には、物件価値を保つ良質な管理へ向けた区分所有者の不断の努力に加え、関連事業者も真摯に責務を果たす必要がある。
そうした背景を踏まえ、3月4日に政府が老朽化マンション対策の改正法案を国会へ提出した。国土交通省及び法務省の所管する、複数の法律を一括で改正する大掛かりな改正法案で、決議要件緩和や多様な再生手法の推進にするなど、広範な規定改正で管理・再生のハードルを下げている。同時に、事業者の役割や義務については、新たな規定を設けて強化を図っている点も注目すべきだ。
特に、〝老朽化マンション〟への対策でありながら、新築時のマンション分譲事業者に向けた規定を創設している点も大きな特徴だ。加えて言えば、先んじて2024年6月には、国土交通省がマンションの長期修繕計画や修繕積立金に関する指針等を改正し、修繕積立金の「段階増額積み立て方式」の引き上げ幅について倍率の数値上限を示している。
国によるこうした動きは、ディベロッパーも主体的に関与し、分譲後の持続的な適正管理に、より明確な責任を持つよう促すものと解釈できる。更に言えば、「段階増額積み立て方式」については、販売時に提示する金額を低く抑え「売りやすくする」ことを優先し、購入者の将来的なリスクを高める構図となっている。そこに国のメスが入ったという事実を、新築分譲事業者側は正面から受け止める必要があるだろう。
もちろん一義的には、管理は区分所有者及び管理組合が自ら負うべき責務だ。土地であれ戸建てであれ、不動産所有者には権利と義務の双方が発生する。立地や仕様など、その時目に見える長所と価格だけを見て、リスク面を軽視する購買層も多いとされるものの、購入時に将来的な管理についての思慮が足りなければ、その結果は否応なく自身に降りかかる。
とはいえ、供給側がそれを盾に、多くの場合〝マンション管理初心者〟である区分所有者に全責任を委ねてしまえば、周囲に危険をもたらすほど劣化・破損した建物が放置されるなど、結果として社会全体への悪影響にもつながる。そしてこれは、既に現実として起きていることでもあるからこそ、国も対策に注力しているという状況だ。
今回の法改正案は、マンションの需給双方に意識の変革を迫っている。この先も高経年マンションの課題が解消されないようであれば、管理組合と分譲事業者の双方に一層厳しい義務が課されることは想像に難くない。そうなる前に自ら責務を果たせるかどうか、いま事業者は試されている。