政策

社説 日銀、マイナス金利を解除 内需拡大に配慮する金融政策を

 日銀はマイナス金利政策と長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の大規模金融緩和を解除した。形骸化していたETF(上場投資信託)とJリートのリスク資産の新規購入も停止した。2016年2月から8年余りの長期に及んだマイナス金利政策。銀行は日銀に預けて金利収入を得ていたが、その金利をマイナス0.1%に設定され、預けたお金の0.1%分を逆に日銀に対して支払わなければならなくなり、日銀にお金を預けたくない銀行が企業の設備投資や個人の資金需要に回ることを狙った政策だった。

 低金利でジャブジャブと市中にお金を流し込む政策は、住宅・不動産業界にとって追い風だ。16年1月29日にマイナス金利の導入が伝わったとたんに不動産会社の株やJリートの投資口が軒並み買われて株価が急上昇した記憶が思い起される。株価にとどまらず、不動産価格もヒートアップさせた。

 理屈上はこうだ。不動産価格は収益還元法で算定され、分子に賃貸収益(NOI)を乗せて分母には期待利回りを置いて価格を算出するが、その期待利回りは基本的に「リスクフリーレート+不動産投資のリスクプレミアム」で決定する。リスクフリーレートは通常10年国債金利を基にしているためYCC(短期マイナス0.1%、長期ゼロ%程度)により分母が低下し、不動産価格を引き上げる。実際、公示地価は大都市圏を中心に地価上昇が顕著だ。マイナス金利の副作用は金融機関だけでなく、東京都心に代表される億ションを始めとする高額帯マンションが相次ぎ登場し、一般消費者にマイホームの夢を遠のかせた。

 ただ、大規模金融緩和の時代に後戻りすることはない。一般消費者にとって高根の花と化した住宅で住宅ローン金利が上昇すれば購入意欲は急速に冷え込む。不動産会社にとっても新たなプロジェクトでの資金調達金利に影響が及ぶ。住宅・不動産各社を評価する際には支払い利息に対するキャッシュフローの大きさや、銀行借入など資金調達に伴うレバレッジの上昇に注意が今後払われよう。

 住宅・不動産市場を冷え込ませないためには底堅い内需が支える実質GDPの成長率がカギを握る。春闘は力強い賃上げを前年に続いて実現させた。ロシアや中東、中国など外需の不確実性が高まる中でも、国内の設備投資が底堅く推移することが重要だ。

 早くもマイナス金利解除後の金利引き上げ時期が注目の的だ。仮に追加的な利上げ機運が高まれば住宅に駆け込み需要が発生する可能性があるが、日銀は緩和的な措置を続ける方針だ。もっとも、今年は後半から日本のインフレ率が徐々に2%を下回るとの観測もあって年内に追加的な利上げを繰り返すことはないとみられる。金利の正常化は必要だが、日銀には、内需拡大の柱である住宅・不動産市場に目配せした金融政策にも期待したい。