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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇113 〝中古〟という言葉 百害あって一利なし 単に「住宅」と言えばいい

 中古という言葉を使う意味がどこにあるのだろうか。現在年間約80万戸の新築住宅が供給されているが、それは全ストック約6000万戸(空き家を含む)のわずか1.3%に過ぎない。

 その新築住宅をいかにも住宅市場での主役のように祭り上げ、それとの対比で全ストックの98%以上を占める既存住宅の価値をあえて貶める「中古」という言葉を使う愚は即刻やめるべきである。

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 言うまでもなく中古という言葉には新築よりも性能や機能が劣るという意味合いがある。言葉が人の意識に作用する力は大きいから「中古住宅」という言葉を使っている限り中古住宅市場活性化の足かせになるどころか、その実現を危うくさえもしているからである。

 では、何という言葉がふさわしいのか。あえて新たな言葉を考える必要はない。ただの「住宅」でいい。住宅と言えばそれは当然既存(中古)住宅のことであり、「新設住宅着工統計」のように新築であることを示さなければならないときにだけ「新築住宅」と言えばいい。

 例えば「社員」といえば普通は既存社員だ。新人であることを強調するときにのみ「新入社員」と呼ぶようなものである。新築住宅と言ったところで、実は買って住み始めた瞬間に中古となるのだから「新築を買った」という意味がどのように存在するのかさえあやしいものである。

2つのジレンマ

 ところで住宅流通市場の活性化は何のためか。個人間の住宅取引を活発化させ、流動性を増し資産価値を維持していくためである。資産価値を維持しなければならない理由は、住宅購入者は買った瞬間から今度は売主の立場になるからである。それが「住宅=資産」ということの意味でもある。逆に言えば、買った住宅を将来売るつもりも賃貸にする気もない人たちにとって流通市場の活性化など無用である。つまり、「売りを前提にしない買い」は住宅を資産と見る限りあり得ない。出口戦略がない投資があり得ないのと同じである。

 ところが、中古住宅購入者にそうした整理が出来ていないから、中古住宅を買う人たちの多くはその最大の理由を「新築よりも安い」ことに置いて当然と思っている。確かに買うときは安いにこしたことはないが、買った瞬間に今度はそれを高く売ろうとする売主の立場になるわけだから(最後まで住みつぶす考えの人たちは除く)、自分が買ったあとも中古市場の最大の魅力が安いことであっては困るはずである。つまり、住宅を資産と考える人たちが安いことを理由に中古住宅を買うことはまさに自己矛盾そのものである。これが第一の〝中古のジレンマ〟である。

 「リフォームでバリューアップしその価値をプラスした価格で売ることに矛盾はない」と言われそうだが、「安い」ということは、その住宅が備えている実質的価値よりも低い値(あたい)で買うから〝安い〟のである。

 そもそも安いことを最大の売りにする市場に展望はない。新築との価格差が決め手ということになれば、その差が開けば中古が売れ中古の価格が上がり、縮まれば中古が売れなくなり新築に需要が向かうということを繰り返すのみだからである。これが第二の〝中古のジレンマ〟である。つまり、「安さ」以外に中古の魅力を見出さない限り流通市場を展望することはできない。

 では新築との価格差以外の中古住宅の魅力とはなにか。近隣住民に関する情報が得やすいことや、街として成熟している安心感は大切な利点となる。しかしそれ以上に大きいのは、中古住宅なら自分の好みに合った家造りをするための素材になるということである。ピカピカの新築に手は出しにくい。自分の感性で自分の住まい、自分の居場所を創っていく楽しさはその工事の規模にかかわらずこの世にある楽しさの中でも最上級の部類となる。そうした楽しさを味わうためには自ら施主となる注文住宅を除けば「中古+リノベーション」という手法が唯一の選択肢となる。