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不動産ビジネス塾 売買仲介 初級編(42) ~畑中学 取引実践ポイント~  仲介トラブル 消費者保護の傾向「媒介契約書の内容を確認させる」

 媒介契約書は、その内容を顧客に説明し確認させた上で記名押印をいただく。ただ見せて「ここに住所氏名の記入と押印を」では厳しい。

 理由はトラブルとなった場合、顧客が媒介契約書に記名押印をしていても「媒介契約書を読む時間も与えず記名押印をさせられた」「そのような説明を受けていなかった」と争いになるのを避けるためだ。特に仲介手数料の支払いの問題が大きく、顧客は契約解除等で引き渡しまで進まなかった場合、「結局購入できなかったのに、なぜ仲介手数料を支払わなければならないのか」と考える。結果、「契約時に支払った仲介手数料を返金してほしい」もしくは「支払わなくても良いですよね」となる。

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 一方で宅建業者としては、国土交通省の標準媒介契約約款に準じた媒介契約書だと売買契約が成立した時点で全額請求できるとしているので、「いや、記名押印してもらった媒介契約書に売買契約が成立したときは報酬を請求できると記載していますので、引き渡しをしなくとも仲介手数料は頂きます」と言うことになる。意見が相違する。

 この争いが高じると裁判となるのだが、判例をいくつか読んでみると宅建業者が説明をし、顧客が理解納得した上での媒介契約書への記名押印でないと「媒介契約は結ばれていない」と見て「仲介手数料は(全額か一部か)支払わずとも良い」となる傾向が見てとれる。消費者保護の観点では至極納得の判例なのだが、宅建業法にある「媒介契約は必要事項を記載して交付する」を字面どおり読んで説明せずとも大丈夫と考えていると泡を吹く羽目になりそうだ。

 こう見ると媒介契約書を売買契約の場で流れ作業的に記名押印を取ることが多い買主には注意が必要だろう。

 説明する時間があまり取れない。筆者も失敗事例があり手付解除を求める買主に「媒介契約書にも書いてあるので仲介手数料は頂きます」と伝えたら、「媒介契約書の説明がなかったですよね。プロとして名前が書いてあって印鑑を押していればそれで良いのですか」と抵抗されたことがある。ごもっともであり、媒介契約書の説明はしておくべきだっと言える。

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 仲介手数料の支払い時期と我々の業務内容は幾ら説明しても損はない。売主の場合は価格査定の後に、買主の場合は物件紹介を始めるときか、遅くとも購入申込書を取得するときに媒介契約書の内容を説明しておく時間もあって良いだろう。少なくとも顧客が説明を受けなかったと言い張るには良心の呵責を生むほど、時間をかけて誠意を持った説明が必要と言えるだろう。

【プロフィール】

 はたなか・おさむ=不動産コンサルタント/武蔵野不動産相談室(株)代表取締役。

 2008年より相続や債務に絡んだ不動産コンサルタントとして活動している。全宅連のキャリアパーソン講座、神奈川宅建ビジネススクール、宅建登録実務講習の講師などを務めた。著書には約8万部のロングセラーとなった『不動産の基本を学ぶ』(かんき出版)、『家を売る人買う人の手続きが分かる本』(同)、『不動産業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)など7冊。テキストは『全宅連キャリアパーソン講座テキスト』(建築資料研究社)など。