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社説 人気上昇続く宅建士資格 信頼醸成で存在感を示せ

 今年も、全国多数の会場で宅建試験が実施された。申込者数は前年度比1.8%増で、近年はおおむね申込者・受験者数の右肩上がりが続いている。社会と都市の成熟に伴い、宅建業の重要性が高まっていることはもちろん、管理や建設など関連事業との結び付きが高度化・複雑化し、周辺産業でも不動産の専門知識と資格が求められるようになった面もあるだろう。

 更に金融や物流、ITなど他分野と融合した不動産事業が増えれば、それらの業界でも宅建士資格は有用となる。「役立つ資格」としての存在感が高まれば、キャリアアップ手段としての魅力も向上する。現在この国は、基本的に給与所得は上昇せず、国民負担は重くなる一方。転職や独立にも生かせる資格として、「当面必要はないが取得したい」というニーズの拡大によっても受験者数が増えていることは想像に難くない。

 そうした実用面は宅建士の強みであり、多方面から注目されることも好ましいと言える。とはいえ、だ。現状、宅建士資格は実用面ばかりが強く意識され過ぎているようにも感じられる。

 15年の宅建業法改正により、「宅地建物取引主任者」が「宅地建物取引士」となった。当時の業界は「悲願の『士(さむらい)業』入り」と喜びに沸いていたように思うが、改正法には「購入者等の利益の保護」「公正かつ誠実」「信用又は品位を害するような行為をしてはならない」といった条文も追加されている。当然ともいえる内容を、あえて明文化したことの意味は重い。その法改正から10年近く経ち、この間に宅建士の責任や業務範囲は一層拡大したものの、「士業」となったこと自体は存在感やイメージ向上を図る意味合いが強い。新たな宅建士となる受験者には、業務の知識だけでなく、そうした社会的な負託に応える意識も持ち合わせてもらいたい。

 一般消費者が「士業」に求めるものの一つは、平易に言えば「頼りがい」だ。士業の多くは、法律のトラブルや税金の悩みなど、「困ったときに頼れる専門家」と認識されている。他方、国交省は22年度宅建業法施行状況調査で、事業者への監督処分・行政指導が前年度比減少ながら「両方とも件数は依然として多い」と指摘。全宅連による「22年度不動産の日アンケート」(23年3月公表)によると、「不動産店に対するイメージ」は、「悪い(合計)」が27.6%で「良い(同)」(13.8%)の2倍だった。このままでは、無邪気に「士業の一角」と胸を張ってもいられまい。宅建「士」が社会から必要とされ、実用的な資格であり続けるためには、今後も一層の信用向上が欠かせない。業界としても継続的に取り組んでいることではあるが、不動産業の従事者自身も宅建試験を機に自らを省みて、これまで以上に高い倫理観と自浄作用で「頼れる専門家」としての存在感を確立していくことが肝要だ。