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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇98 社会の底を編むもの 11月14日、記念シンポジウム 「ひと・住文化研」設立1周年

 筆者にとって住まいシリーズ4冊目の著書となる『住文化創造~日本再生へのガイドライン』(プラチナ出版)が刊行された。昨年11月に発足した一般財団法人ひと・住文化研究所からの依頼で、現代における住文化の必要性を説いたものである。

 住文化とはなにかと問われれば、住む楽しさを知ることと答える。日本に住文化がないという指摘があるのは、住宅を所有すること自体を楽しむ人は多いが、そこでの暮らしを楽しむ道具として工夫・演出する人は少ないということである。

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 戦後78年を経た今、空き家問題が深刻化しているのも、日本に住文化が形成されてこなかった証左といえる。なぜなら、空き家の大量発生は、住宅が単なるハコとしてしか扱われてこなかった結果だからである。

 住宅が日々の暮らしを楽しむ舞台として蓄積されていれば、今のように築20年を超えたら一律に無価値とみなすことはなく、年月を重ねた住まいほど、暮らしを楽しむ舞台としての味わいが増し、高く評価される文化が育っていたと考えられるからである。 

 日本に住文化が形成されていないもう一つの大きな要因が核家族化の定着である。核家族社会では子供は成長すると親元から離れ、新たな住宅に移り、今度は自分が親になってそこで子供を育てるが、いずれは夫婦だけにもどるので、その家も最後は空き家となっていく。

 戦後家督制度が廃止され、個人が尊重され、家族が一世代ごとに細胞分裂を繰り返すようになった社会では、そもそも世代を超えた年月の風合いを住まいに求めること自体、無理な話である。

 現代社会がどこか底が抜けているように感じるのも、暮らしの原点、地域社会の核となるべき個々の住宅に〝文化〟という社会を彩る機能が欠けているからである。

文化とはなにか

 たとえば、住まいは人が主(あるじ)と書くように、主が客を招く楽しみがあってこその住まいである。にもかかわらず、現代の住まいにそのような機能があるだろうか。 戦前までは中流以上の家ならたいていは応接間というものがあったが、今は見当たらない。応接間が正式に客を迎える場所であるなら、もっと気軽に隣人を迎え入れ談笑する場が縁側だったが、そういう機能さえ、今の住まいは備えていない。敷地を囲う塀の内には外部からの視線を遮る樹木が植えられ、気軽に庭先に入り込む余地はどこにもない。戦前までは引き戸が多かった玄関も今は重たいドアに代わり、外との交流を拒否する冷たい風情にあふれている。

 もちろん、戦前と今とでは日本社会は大きく変わった。少子・高齢化の加速、人口減少、所得格差拡大、衰退する地方と地域社会など国家衰亡の危機さえはらんでいる。しかし、だからこそ、社会の底を編む文化の力が今こそ必要なのではないか。

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 現代社会における住文化の意義を問うシンポジウムが「ひと・住文化研究所」(鈴木静雄代表)の主催で11月14日、東京・池袋のホテルメトロポリタン(JR池袋駅西口徒歩3分)で開かれる。

 第1部の基調講演は、広島大学名誉教授で無宗派寺院「ありがとう寺」住職の町田宗鳳(まちだ・そうほう)氏。 町田氏は1950年京都市生まれ。大徳寺で14歳から20年間修行したあと渡米。ハーバード大学で神学を修め、ペンシルバニア大学で哲学博士号を取得。専攻は比較宗教学と比較文明論。「ありがとう禅」というセラピー的効果のある瞑想法の普及にも努めている。

 第2部は全宅連不動産総合研究所の岡崎卓也氏のコーディネイトによるパネルディスカッション。パネリストは鈴木静雄代表、長井克之住宅産業塾長、戸倉蓉子ドムスデザイン社長、それと筆者の4人。開演は午後6時でシンポジウム終了は8時。その後懇親会も開かれる。会費は懇親会費込みで一人1万円。参加者には『住文化創造』(定価1650円)が進呈される。