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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇93 仲介業を先駆者に 〝ジョブ型〟で信頼確保 「宅建士協会」の創設を

 コロナを機に日本企業の雇用スタイルが従来のメンバーシップ型からアメリカ型の能力主義(ジョブ型)に移行していくのかが注目されている。というのも、コロナが収束したからといって社員全員が毎日決まった時間に出社し、決まった時間に退社するスタイルが完全復活するとも思えないからである。もちろん、社員同士が会社で顔を合わせ、ときに雑談することの意義は認めるものの、従来のスタイルに無駄がなかったかといえばそうとも言えない。

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 毎日出社しなくてもテレワークで十分仕事ができる職種があることが判明したし、そうした職種に就いている者にも出社を義務付けていたことで、通勤という膨大な時間とコストを浪費していたことは否定できない。

 ただ、経営者の中には、そうした者たちにはコロナ収束後もテレワークを認め、そうでない職種の社員に出社を義務付けた場合、組織としての統一性が保てるのか、社員の間に不公平感や分断意識が生まれるのではないかと懸念する向きもある。

 しかし、そうした懸念の多くは従前の職場環境を前提にしたものであり、職種が違えば待遇も働く環境も違うのは組織としてはむしろ当然ではないだろうか。日本企業の多くはいまだに終身雇用・年功序列など家族主義的経営の香りを残しているが、資本主義も人的資本に注目が集まる中、個人の能力に主眼をおくジョブ型雇用への移行は避けられないのではないか。

 その先駆けとなるべき職種が住宅の仲介業だと思う。個人にとってかけがいのない資産である住宅売買をサポートする仕事は消費者の信頼が第一となる。ではその信頼はどこから生まれるのだろうか。

 かつて、三井不動産リアルティの社長・会長、不動産流通経営協会理事長などを歴任し、現在は不動産流通推進センターの特別参与も務めるセゾンリアルティ会長の竹井英久氏はこう語る。

 「同じ宅建士でも自社物件を販売する宅建士はいわばショップ店員だから顧客(カスタマー)である消費者に対しては嘘をつかず、契約内容や物件について正確に説明すれば足りるが、仲介業務を担う宅建士は不動産売買のアドバイス・コンサル業務を依頼されているわけだから、消費者を顧客ではなく依頼者(クライアント)として認識し、依頼事項達成のために消費者サイドに立って全力を尽くさねばならない」

組織内〝士業〟に

 つまり、同じ宅建士でもその業態によって求められる責務は異なり、仲介業務を担う宅建士は不動産会社に所属しつつも、クライアントである消費者サイドに立って仕事をしなければならない責務があり、最も厳格な職業倫理が求められると指摘する。事実、宅地建物取引主任者から宅地建物取引士に名称を変更した15年の改正宅建業法も新設した第15条でこう定めている。「宅地建物取引士は、購入者などの利益の保護に努めなければならない」(一部省略)。

 努力義務に過ぎないと言ってしまえばそれまでだが、宅地建物取引士が主語となる条文が設けられたのは初めてである。主任者を〝士〟に昇格させた法の意図をそこに見ることができる。ゆえにこの名称変更を強く求めた不動産業界には努力義務を努力義務のままで終わらせない責任がある。そのためには不動産会社に属しつつも、その業務遂行にあたっては宅建士を独立した〝士業〟とみなすシステムが必要だ。

 そこで、同改正法施行時にも議論のあった「宅建士協会」の創設を改めて提唱したい。その目的は宅建士としての倫理の実践と消費者からの信頼確保である。

 「依頼者利益のために全力を尽くす」という基本精神を貫くための行動規範を策定し、同協会が定めた倫理規定に協会加盟の宅建士が違反した場合の除名規定なども定める必要がある。この画期的構想を実現するためには、既存業界団体の積極的支援が不可欠となる。