政策

社説 株高の波に乗れない不動産株 活力確保へ、将来像を示せ

 33年ぶりの株高に沸いているニッポン。国内の不動産市場のファンダメンタルズ(経済の基礎的要件)も安定しているが、不動産各社の株価は株価けん引役の大型株と比べて見劣りする。昨年末に日銀が長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)を修正したことや、今年2月以降の米金融不安で米商業用不動産市場が低迷したことなどを受けて不動産株に対する評価は弱含んだ。その後、その揺り戻しもあってやや持ち直したが、リーマン・ショック前の株価水準に遠く及ばない。

 不動産株には、株式相場全体のモメンタム(勢い)に乗じて持続的に上昇する力強さが見て取れない。なぜなのか。単純に推察すれば投資家から評価を受けていないからだが、その評価を受けない理由には根深いものがある。YCC修正といったマクロ環境に不透明感が漂っているが、今後の日銀の金融政策による利上げ云々ではなく、社会構造変化に住宅・不動産業界が対応できていないことが最大の理由であろう。

 人口減少が加速度的に進む中で、分譲マンションの新規供給が続き、減り続ける労働人口の中でオフィス供給の過剰感も投資家からネガティブ視されている。分譲市場の販売力と商業用不動産の収益力の将来性に疑義が生じていることは、不動産株にとどまらず、Jリートの投資口価格(株価に相当)にも映し出されている。東証リート指数は1800ポイント台に甘んじており、セクター別に見ると、新型コロナウイルスの影響を大きく受けたオフィス系リートの評価がいま一つだ。同様に直撃を受けた商業施設やホテルはインバウンド(外国人訪日観光客)の復活を受けて投資家の間で人気化している。この現象を見れば、もはや国内需要のみを当てにできない日本の現状が浮き彫りとなっている。

 株価・投資口価格はさまざまな要因で変動するが、持続力のある上昇トレンドを描くには市場の期待を上回る利益成長が欠かせない。株主資本を使ってどれだけもうけを出すことができるのか。人口減少のネガティブ要因を払しょくできる活力を確保できるのか。そこへの対処は不動産業界が伝統的にもつ〝あうんの呼吸〟での取引を見直す必要がある。端的に言えば透明性の問題だ。「この物件の収益力は想像がつくでしょ?」ではダメだ。Jリートを除けば日本はトラックレコード(収益実績の履歴)を公表せず、海外投資家からは〝履歴を隠す習慣〟を常々指摘されてきた。投資家は出さない、出せない情報はリスクだと考える。市場が縮小する中ではなおさらだ。〝あうんの呼吸〟の範疇(はんちゅう)にない投資家が資金を拠出するわけがない。不動産各社は取引する不動産の収益実績をつまびらかにすると同時に新規参入も含めて事業ポートフォリオを見直し、人口減少下でも収益を上げられる将来像を示すことが求められている。