売買仲介

基準地価マイナス圏からの脱出(上) 郊外に広がる好転期待 続くか適温相場、業界に警戒感も

 国土交通省が9月20日に発表した都道府県地価調査(基準地価)は、全用途平均で3年ぶりに上昇に転じた。商業地も3年ぶりに上がり、新型コロナ禍で落ち込んだ店舗需要の回復をじわり反映した。テレワーク定着など働き方改革が進み住宅需要に広がりがみられ、住宅地は31年ぶりバブル経済崩壊後初めて上昇に転じた。不動産取引は総体的に活発である。ただ、価格の高騰と土地や物件が市場に出回らない品不足感が強まっている。地価の回復傾向に継続性があるのか。直近の不動産事情から占う。

■東京圏 住宅地

 東京23区の地価はすべての区で上昇率が拡大した。都心とその周辺の利便性の高い地域ではマンション、戸建て住宅とも旺盛な需要が地価を押し上げる。JR中央本線の中野駅周辺は再開発事業を受けて地価の上昇幅を拡大した。 中古マンション価格は上がり続けている。新築価格に引っ張られている面もあるが、複数の仲介会社からは、「デベが新築供給を見送っており、その抑制策のため消費者の需要が中古に流れているほか、買取再販事業者の強い買い意欲が中古価格を押し上げている。高値設定での成約が最近しづらい」として売買価格の天井感を実感する。

 東京カンテイによれば、22年上半期(1~6月)の首都圏の中古マンションの価格相場は前期比6.4%上昇し、1坪当たり302.8万円と19期連続で上がっている。21年以降は3期連続で6%以上の上昇率を示すなど強含みの展開が続いている。東京23区の坪単価は374.7万円(3.9%上昇)に達する。自宅を売却して住み替えを検討する消費者からは、「(中古マンションが)地べた付きの戸建て住宅の流通価格より高いのに違和感を覚える」(都内80代の男性)との声も聞かれる。賃貸マンションから分譲マンションに移り、そして最後に一戸建てが〝終の棲家〟という昔ながらの住宅スゴロクではなくなった。

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 そうした中で複数の住宅・不動産関係者は、「景況感が悪化すれば、分譲マンションの値崩れは速い。仮に金利が上昇局面を迎えれば物件価格は下げに転じるだろう」と口をそろえる。購入を積極化する買取再販事業者で在庫が積み上がれば市況悪化の引き金になりかねないと警戒する。実際、購入相談は昨年の旺盛な需要から落ち着きをみせている。国内外の今後の景気と国内金利の動向に注意を払い、各社とも調整局面を頭に入れながらの対応で楽観論は見当たらない。土地の成約件数も減っており、「当社の今年1~7月までの状況としては首都圏で前年比6.1%減少し、特に埼玉は20%減と1都3県で最も下落幅が大きい」(都内の仲介会社)。

 一方、今回の地価上昇は、住宅需要の広がりを印象づけた。都市部での価格高騰に加えて、在宅勤務などライフスタイルの変化が郊外に需要を向かわせている。茨城県つくばみらい市は、東京圏で住宅地価の上昇率が10.8%と1位となった。同市内には2位(10.4%)と3位(10.0%)もランクインした。

 国土交通省は、つくばエクスプレス線沿線で住環境が良好な新興住宅地での転入者が多いとする。ただ、東京カンテイ上席主任研究員の井出武氏は、「都心通勤需要ではなく基本は地元需要。リタイア層の受け入れ先としても注目を浴びている」と指摘する。

■東京圏 商業地

 個人消費の持ち直しや、店舗需要の回復が進んでいる。仲介大手は、「特に法人需要は首都圏全域で積極的だ。取引価格の上昇をけん引している」と話す。プロは海外投資家とファンド勢などの動きが活発になっている。円安を受け海外勢が存在感を出し、「国内の投資家よりも5~10%高く買い付けている」との声も上がる。東京23区全体をみると、商業地は2.2%上昇し、11区で上昇率が拡大した。JR新宿駅の周辺は、国内屈指の歓楽街として知られる歌舞伎町が前年10.1%の下落率から0.0%とマイナス圏から脱した。新宿駅西口は再開発プロジェクトを控えており、西新宿1丁目は前年の2.5%下落から0.5%上昇に転じた。外国人に人気の観光地である台東区浅草寺周辺は昨年マイナスだった地点が軒並み4%台の上昇率に転じた。

 都内にとどまらず、さいたま市や千葉市、横浜市も前年より上昇率を上げた。住宅地と同じように店舗需要でも郊外が存在感を出している。千葉県木更津市は、全国上昇率6位(19.8%上昇)にランクインした。整備中の多機能複合型都市「かずさアクアシティ」での商業施設の開業や住宅整備などの発展期待から店舗需要を支えている。

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 とはいえ、米欧の急ピッチな利上げを受けて急速に進む円安や、個人所得が改善していない中での原材料・エネルギー価格上昇に伴うインフレなどの懸念はむしろ強まっている。全国最高地価は東京・銀座の「明治屋銀座ビル」が17年連続で維持しているが、変動率は依然としてマイナス圏に沈んでいる。銀座ではバーを中心に夜の飲食店街で下落幅を前年より拡大している地点もあり、丸の内・銀座エリアの回復は道半ばだ。

 都心で大量供給を控えるオフィス市況も持続的な改善への期待感が持ちにくい。空室率は23年末まで6%台前半でのレンジが続き、募集賃料も上昇に向かわないとの見方は根強く残る。名目金利が横ばいで推移する中でインフレ率が高まることは不動産価格を下支えするとみられてきたが、やや状況が変わった。むしろ実物不動産の価格がピークアウトするリスクが高まりつつあるとの見方もある。

 モルガン・スタンレーMUFG証券の竹村淳郎エグゼクティブディレクターは、「実物不動産の価格は金融機関の貸し出し態度に遅行する傾向がみられ、金融機関の貸し出し態度は米国に遅行する傾向がみられる。米国は足元で不動産業向けが急速に悪化している」といい、日本の実物不動産の流動性の悪化につながる可能性を指摘する。

 地価下落から脱する好転期待が一転し、適温相場が続かずに持続的なオフィス市況の改善に黄信号がともりかねないなど不動産市況悪化のシナリオも潜んでいる。