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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇59 住まいの本質に迫る BESSの新作「平小屋栖ログ」 大空を羽ばたく鳥のように

 中島みゆき作詞・作曲で加藤登紀子の「この空を飛べたら」という歌がある。

 「あゝ ひとは昔々 鳥だったのかもしれないね こんなにも こんなにも 空が恋しい」 

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 ログハウス国内シェアトップのBESS(ベス=アールシーコアのブランド名)は8月20日、最新作・「平小屋栖ログ」を発表した(14面参照)。栖(すみか)は木の上にある笊(ざる)状の鳥のすみかのこと。大空を軽やかに飛び交う鳥が憩う場所である。

 平小屋は、ただの平屋でも、ただの小屋でもなく、住まいの本質に迫ろうとするBESSの意欲を示す造語である。小屋は小さいからこそどこにいても手が届く肌触り感があり、憩うことができる。平屋は低く横に広がる構えが美しく、外との一体感を感じさせる。

 小さいからこそ住まいの本質に近づくことができるというのが「平小屋栖ログ」のメインコンセプトだ。住まいの本質とは何かといえば、「住人の人柄が浮かび上がる場」とBESSは考える。

自由に生きる

 住人の人柄は、その人が自由に生きる姿にこそ現れる。では、自由に生きるとはどういうことか。これでもか、というぐらい極限的制約の中で生きることである。制約があればこそ、好きなことをなんでもというわけではなく、自分なりの割り切りが必要であり、その割り切りを楽しむところにこそ本物の自由がある。

 「平小屋栖ログ」の制約はまさにその小ささである。床面積が約30m2のS30、同40m2のM40、同60m2のL60という3つのモデルがある。それぞれ横の広がりは異なるが、いずれも奥行きは4.5メートルしかない。つまり部屋に入って4歩も進めば反対側のログ壁に突き当たる。しかし、小さいからこそ部屋のどこにいても外気を感じることのできる軽やかさがある。

 住まいは、ヒトという生命体にとって〝第二の肌〟とも言われる。だからこそ、壁や床などが持つ肌触り感、外気との距離感、日常的によみがえる細胞のような〝蘇生感〟が大切な要素となる。

 L60(3モデルの中では12メートル超のワイドな間口で中央に玄関がある)の第1号モデルが完成したBESSの単独展示場「LOGWAYつくば」(茨城県つくば市)に報道陣を招いた見学会では、まず同社専務の永井聖悟氏が「栖ログ」の市場政策について語った。その中で同氏は平小屋マーケットを3つに分けて解説した。(1)自由・賢さ・軽やかさが新たな価値観となってくる潜在マーケット。(2)平屋の住まいとして、離れとして、移住先として、二拠点用として既に顕在化しているマーケット。

 そしてもう一つがBtoBマーケットで、キャンプ場、企業の保養所、稼働率を上げたい賃貸住宅としての活用も期待できるという。契約目標は23年度までに120棟を見込んでいる。

小さく建ててこそ そして、最後にビデオ参加したアールシーコアの二木浩三社長はこう語った。

 「面白い住まいが完成した。小さく建てて大きく暮らそうというコンセプトだが、平屋の魅力を引き出す広い敷地が必要になる。人間らしさが引き立つ地方での暮らしを積極評価する住まいでもある」

 小さく建てるからローン負担も、メンテ費用も軽くなり、生活費への圧迫感も小さい。近年の平屋ブームは高齢者だけでなく、モノを増やさないシンプルなライフスタイルを求める若い世代にも支持されているようだ。

 二木社長はこうも語った。「もし、住まいの家族幸福度という指標があったら、栖ログは面積当たり幸福度が最高の住まいだ。それぐらいの気持ちを込めて開発した」

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 中島みゆきの詞には悲しくなるほどの説得感があるが、BESSの「平小屋栖ログ」には住まいの本質に迫れた幸福感がある。