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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇55 加速する〝ソロ社会〟 他者との共生が苦手? 己を知ることが自信に

 日本ではペットは家族の一員だが、高齢者はそうでもなさそうだ。マンションやアパートにも「ペット共生型」はあるが、高齢者との共生をコンセプトにしたものはシェアハウスの一部(多世代共生型)に見られる程度である。   ◇     ◇

 高齢者の一人暮らし、または高齢者夫婦のみの世帯が増えている。65歳以上の者がいる世帯を全体とし、それを世帯構造別に見ると、「三世代で暮らす世帯」が86年には44.8%と4割を超えていたが、19年には9.4%と1割を切っている。

 逆に高齢者の「一人暮らし世帯」と「夫婦のみ世帯」の比率は増える一方で、19年には前者が28.8%、後者が32.3%となり、合わせると全体の6割強にも達している。

 つまり、今日ぐらい「家族の絆」が叫ばれている時代はないのに、高齢者を家族の一員として迎え入れる思考は薄く、高齢者専用住宅か施設に囲い込む志向が強い。

 そこに既に時代的使命を終えた「核家族化」をいまだに惰性のごとく続けている日本社会の怠慢性がある。

進む未婚化

 更におかしいのは、高齢者になる手前の50代でも単身化が進んでいることである。男女合わせた数値で15年には223万人だった単身者が、30年には311万人まで増えると予測されている。

 最大の要因は、未婚化の進展である。50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合を「生涯未婚率」と呼ぶが、それが85年までは男女とも5%以下となっていたが、90年以降急激に上昇し、15年には男性が23.4%、女性でも14.1%となった。

 そして国立社会保障人口問題研究所(社人研)の将来推計によれば、30年には男性が28.0%、女性は18.5%まで上昇すると予測されている。

 50歳未満の若い世代でもほぼ同様の傾向が見られ、またこれに離婚率の増加が加わり、社人研では40年には日本の単身世帯は全世帯の39.3%と4割に近づくと予測している。

 ちなみに離婚率(その年の婚姻件数に対する離婚件数の割合)は70年には9%程度だったが、その後増え始めて2000年ごろから現在まで35%前後で推移している。3組に1組が離婚している。

 なぜ、日本人はこれほどまでに〝ソロ化〟を志向し始めたのだろうか。

 それは、逆説的だが、日本人が「私」を喪失し始めたからではないだろうか。私の何たるかを見失うことで、他者に対する思いやりや理解力が薄まり、他者との共生を苦手とし始めているのではないかという仮説である。

私らしさ

 積水ハウスの住生活研究所では、住まいが提供すべき「幸せ」とは何かを研究している。その具体的研究テーマとして、6つの幸福感を掲げているが、その中に「家族のつながり」と「私らしさ」がある。ちなみに残る4つは「健康」「生きがい」「楽しさ」「役立ち」である。

 筆者はこの6つの中では「私らしさ」を最も重要な要素と考えている。「幸福とは自分らしく生きること」と考えるからだ。ただ、「自分とは何か」と問われたら、今のところ「他者ではない何ものか」と答えることしかできない。

 自分(私)を自分ならしめているのは感性のようにも思えるが、その感性がどこから生まれてくるものかは説明不能だ。

謎は多いが

 要するに、この世はまだ科学的に解明されていない多くの謎に満ちていると言わざるを得ない。07年に46歳の若さで急逝した哲学者で文筆家の池田晶子氏は死を前にしてこういう言葉を残している。「池田晶子は死ぬが、私は死なない」。

 ただし、自分が何ものかを知ることが幸福を感じるための第一歩であることは間違いなく、それを知ることで、家族など「人とのつながり」の大切さも分かってくるのだと思う。