売買仲介

「クロトン」中古流通活性化に活路 沖縄発インスペクション普及へ 小規模設計者で連携網 全国でノウハウ共有めざす

 中古住宅市場が全国的に厚みを増している中で、売買取引の活性化にはインスペクション(既存物件診断)が欠かせない。ただ、大手と違い中小零細事業者は、インスペクションのノウハウを持たず、やり方が分からないケースが少なくない。そんな中で小規模な建築設計事務所がノウハウを共有化するプロジェクトを推進する取り組みを追った。

 沖縄県内で設計会社を営むクロトン(浦添市、下地鉄郎代表)は、「全国インスペクションパートナー」事業を展開しており、沖縄発のインスペクション網を広めていきたいとする。全国の小規模零細建築設計事務所とネットワークを築きながらインスペクションの重要性を訴えて消費者に活用を促していく。

 インスペクションでは、壁や柱、基礎といった構造耐力に問題がないかを調べる。下地代表は、「当社では6年前にインスペクションをスタートしたが、毎年需要が増えている。買主だけでなく、売った後のトラブルを回避しようと売主からの要望が多いのが特徴だ」と話す。問い合わせも1カ月当たり15件ほどが舞い込み、うち半分が契約に至るとしてビジネス市場としての広がりに期待している。

 手掛けた案件では、築70年の瓦屋根の戸建て住宅があるが、築40年程度の物件からの依頼が多いという。沖縄の場合は、RC造の戸建て住宅が珍しくなく、そうした住宅のリノベ費用などはかさみやすいだけに事前の診断調査により無駄な工事を防ぐ手立てにもなる。売主と買主が安心して取引できる環境につなげることで中古住宅の売買市場の拡大にも期待している。

 住宅以外のインスペクション需要も増加しており、特に沖縄ならではの旺盛な観光需要を受けてホテル需要が伸び盛りといい、福祉施設からの依頼も増えている。収益物件の傷み具合を説明して修繕したことでキャッシュフローを増やせたとしてアパート大家から評価を受ける。1物件当たりのインスペクション料金は住宅の場合で5万~10万円、ホテルなど住宅以外の案件で20万~40万円になる。業務報酬が特段高いわけではないが、「利益率は満足のいくもので利益幅の薄い事業を補完できる。小規模事業者にとって毎月の収益の安定に貢献している」と話す。

 現在、「インスペクション沖縄」として沖縄県内で6社が加盟している。「インスペクション熊本」も立ち上げており、熊本県のFAD建築事務所が参画している。今後、九州で加盟事務所を広げて、将来的に各都道府県を網羅することを思い描く。「関東の友人と連携してセミナーなどの開催を予定している」(下地代表)といい、一定数のパートナーが集まれば、オンラインで全国の物件を遠隔診断に転用できると考えている。

 米国では中古住宅の取引が活発なことでインスペクションの普及率も7~8割に達してインスペクター(診断士)の活躍の場も多いとされ、下地代表は日本でもインスペクションの認知度が高まることで中古取引の活性化が進み、小規模零細事業者の商機にもつながるとみる。(中野淳)