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パラダイムシフトの様相(中) コロナ禍で急激に変化する住宅産業 非対面は「利害一致」の産物

 住宅は人生で最も高額な買い物――。これまで、住宅事業者、消費者双方にそうした認識があったため、それぞれが対面しながら折衝することが、長く当たり前とされてきた。しかし、状況が一変。現在ではオンラインによる非対面での折衝が双方にとって当たり前になった。これはパラダイムシフトと呼ぶべきコロナ下における象徴的な様相の一つである。 (住生活ジャーナリスト・田中直輝)

 可能にしたのは、情報通信・処理技術の進化だ。単にインターネットを通じたリモートでの折衝を可能にしただけでなく、間取りや素材などの比較や検討もAIやVRによる新たな仕組みが積極的に導入されたことで、事業者・消費者にとっての利便性が大幅に高まった。

 その結果、オンラインによる集客が大幅に増え、例えば複雑なステップを踏むことが要求される注文住宅の折衝においても効果を発揮し、現在では「コロナ禍前の受注状況に戻っている」などという声をハウスメーカー関係者からよく耳にする。

 大和ハウス工業もその一つだが、オンラインを集客や折衝だけでなく、専用の戸建て商品として「ライフジェニック」を販売しているのが特徴だ。これはライフスタイル診断から始まるフローに基づき、顧客が外観や間取り、インテリア、設備などを自ら選択することでプランニングを作成する仕組みとなっている。

 その過程で概算価格も分かり、営業・設計担当者らと顔を合わすことなく、自分たちの好きなタイミングで検討を行えることから受注が好調に推移している。

 実はこれが発売されたのはコロナ禍が本格化する前の19年11月。当時、特に重要視されていたのが、社員の働き方改革など生産性の向上だった。コロナ禍により顧客はもちろん、供給者側にも大きな混乱を招いたが、オンライン専用商品は双方の課題を解消した結果、前述の好結果を生み出したのだと考えられる。

 同社では今年4月末、「メタバース住宅展示場」の取り組みにより、オンライン上での住宅販売強化に乗り出している。これは、営業担当者と顧客がアバター(ネット上の仮想空間での分身)となって、仮想空間上のモデルハウスを訪問、接客できるというものだ。

コロナ禍契機に進化

 ところで、オンラインで住宅を販売する手法は、我が国でインターネットが普及し始めた2000年代前半から存在。「坪単価25万円~」などという低価格をウリにしていたが、長く消費者の支持を得られてこなかった。それは極端に選択肢が少ないことに加え、そもそもそれがどんな住宅なのか消費者にとってよく理解できなかったためだ。

 コロナ禍を契機とした情報技術の積極的な導入と、それに伴う販売手法の進化が、オンライン住宅販売に関わるそれらの課題を解消した。

 オンライン住宅販売に限らず、非対面を前提としながらの営業活動は、今後ますます普及するだろう。少なくとも間違いなく、なくなることはない。それは供給側と需要側双方がメリットを理解した上での、まれに見る利害一致の産物のように見える。