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転機(中) 不動産業界の急所 金利上昇に備えよ 分譲マンション販売現場、春商戦前に緊張感 即完を狙わず持久戦 ローン金利上昇は市場冷やす 価格バブル超え連呼に業界は警戒感

 米国の利上げ政策の余波は、日本の住宅ローンの金利にまで及んできた。三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3メガバンクが2月適用分の10年固定金利を一斉に引き上げたことで住宅ローン金利の先高観を消費者に印象付けた。分譲住宅の価格が高騰している中での金利上昇は消費者にとってダブルパンチとなる。感染症や国際情勢など消費者心理も揺さぶられる。向こう1年を占う重要な春商戦を控えており、住宅・不動産業界に緊張感が漂い始める。分譲マンション市場を観測する。

黒田総裁任期見据える

 住宅金融支援機構が2月に発表した「住宅ローン利用者の実態調査(21年10月時点)」を見ると、向こう1年間の住宅ローン金利見通しについて「現状よりも上昇する」は23.1%、「ほとんど変わらない」が63.1%だったが、専門家は全期間固定型のフラット35の金利上昇も見込む。

 住宅ローン比較サイト「モゲチェック」を運営するMFS(東京都千代田区)の堀江勇介チーフアナリストは、「22年3月の金利は1.44%と2月から0.08%上昇し、18年11月以来の高水準になる」と予想する。ただ、複数の市場関係者と専門家は「注視する必要があるものの住宅ローン金利を上げて〝住宅市場を冷やす戦犯〟になる覚悟が金融機関にあるかは疑問だ。中長期的に安心感はないが、日銀の黒田東彦総裁の任期中(23年4月)は一本調子で上がり続ける心配はない」との見立ては少なくない。

 固定型の金利は長期金利に連動するが、変動型の金利は日銀の政策金利に連動するため、マイナス金利の解除がない限り低い水準が続く。このため変動型のローンを選ぶ消費者は依然として多い。

 住宅ローン金利は、史上最低水準の低空飛行が続き、それが消費者の住宅購入を支えてきた。22年から住宅ローンの控除率が1.0%から0.7%に引き下げられるなど住宅購入を取り巻く環境が変わったが、現場からは「駆け込みはなかったが、販売に減速感もない」「勢いは衰えていない」との声が聞かれる。

 不動産経済研究所によれば、直近1月の首都圏の新築マンション発売戸数は1128戸と2カ月連続で前年同月比を下回り、初月契約率も58.4%と振るわなかった。新型コロナ感染症の新種株の急拡大が影響したと見られ、「オミクロン型がピークアウトして収束に向かえば落ち込みは取り戻せる」(市場関係者)との見方が少なくない。

 とはいえ、土地総合研究所の「不動産業業況調査(22年1月)」からは安堵感が見て取れない。経営状況を指数化しているもので、「0」を良しあしの判断の分かれ目とするが、「モデルルーム来場者数」は前回調査(21年10月1日)から11.8ポイント下落してマイナス29.2ポイント、「成約件数」は前回から4.0ポイント下落し、マイナス8.2ポイントだった。いずれもマイナス圏に沈んだ。

 半面、「販売価格の動向」は上昇しているとの見方が多く、前回から10ポイント上がり60.0ポイントだった。39期連続で上昇傾向の見方が続いている。  不動産経済研究所の調査では、21年の新築分譲マンションの首都圏価格は平均で6260万円とバブル経済期を超えて最高値を更新したが、平成バブル期超えは「言い過ぎだ」の声も上がる。

割高感は単価で判断

 東京カンテイ市場調査部主任研究員の高橋雅之氏は、「当社ではバブル期をまだ上回っていないと認識している」と話す。バブル期と現状では1戸当たりの専有面積が違うことが考慮されていないためだ。バブル期を超えたかどうかは単価ベースで判断すべきだと指摘する。

 同社のデータで21年の新築マンション単価(表(下))を見ると、バブルピーク比で首都圏が98.5%、東京都は86.4%である。専有面積は東京都を見ると、21年の64.03m2に対し、89年が51.71m2、90年が47.28m2である。つまり物差しが違う。消費者の購入意欲を冷やすため、業界では『平成バブル超え』を連呼されることを歓迎していない。

 もっとも、価格水準が高水準なことに変わりはない。新築価格はアベノミクス前から3~4割は上昇しており、価格調整局面をいつ迎えるのかが焦点となりやすい。

 前述の高橋氏は「新築価格は下がらない。原材料価格は値上がり、大手寡占も進んだ。大手は即日完売を狙っていない。値下げをしないで購入する消費者を待つという持久戦に持ち込める耐性がある。販売価格は1期販売より2期、3期が値上がりする可能性もある」と分析する。

 一方で、中古マンション価格は新築のように原材料費など開発業者の都合ではなく、市場原理にのっとって動く。端的に言えば経済・株価の動向に左右される。中古価格は過去1年間で10%ほど上昇しているが、経済・株価の水準を見て売主が動く。株価が下がれば〝今が潮時だ〟と売り物件が増えるのが定番。ロシアがウクライナに侵攻し、売り物件を増やす可能性があるとの見方が急浮上する。もちろん、中古に限らず新築の消費者心理も冷やしかねない。

円安が海外マネー呼ぶ

 海外勢の存在感は増しそうだ。インバウンド需要が増える可能性が出てきた。米欧などが利上げに踏み切る中で、日銀の低金利政策を受けて円安が進んでいる。日本の物件価格が高水準とはいえ、海外との比較では割安とされ、そこに円安が加わり外資勢の買いやすさがさらに増す。東京五輪前に台湾などの富裕層が東京湾岸のマンションを積極的に買い付けていた実績を踏まえると、円安を背景に東京だけでなく局所的にもう一段の価格引き上げを投資マネーが演出するかもしれない。