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飛躍への岐路 踏み出す一歩 木造中大規模は新たな段階へ 活気を帯びる開発 設計者の育成が鍵

 昨年後半には、住宅、非住宅を問わず、木造中大規模建築の開発計画の発表、竣工が耳目を集めた。技術革新が進む中で、新たな課題への挑戦が見られた。脱炭素社会の実現や国産材の利活用を踏まえ、政府も昨年10月1日には改正木材利用促進法を施行し、それまで公共建築物を中心に定めていた木材利用の促進を、民間建築物に広げ、改めて木造普及の機運は高まりを見せている。

 木造中大規模建築物に関する新たな課題への取り組みは随所に見られる。

 アキュラホーム(東京都新宿区)は新社屋を純木造で開発する。予定地はさいたま市西区。敷地面積は8944m2で、8階建てを1棟、2階建てを2棟建設する。着工は22年、竣工は24年度の予定だ。ポイントは(1)免震装置に頼らない耐震構造、(2)構造の木材を現し(あらわし)とする、(3)接合部に特殊な接合金物等を使わず、継ぎ手・仕口の伝統的な技術を住宅用プレカット工場で製作――などで、普及している資材・工法・施工の採用にこだわりを見せる。

 昨年10月21日の会見時に宮沢俊哉社長は「北米ではオープン工法(ツーバイフォー工法)で6階、7階建ての高層の木造建築物が建てられている。日本で木造の中大規模建築物を造ると、価格が高くなる」と課題を指摘。新本社ビルは普及価格帯のプロトタイプと位置付け、全国の工務店が参考にできる物件を構築し、木造中大規模建築物の普及を図る。

 また、YKKグループは昨年12月2日、富山県黒部市で開発しているパッシブタウン最終街区(第5期街区)の建設計画概要を発表した。6~7階建ての木造の複合型賃貸集合住宅を4棟建設する計画だ。工期は23年4月~25年3月を予定する。

 構造は木造と一部鉄筋コンクリート造・鉄骨造のハイブリッド構造。地元の県産材を使用する方針で、基本設計・実施設計を担う竹中工務店の山口広嗣常務執行役員は「富山の木を主体とした日本の木材を組み合わせ、日本の関連法規、レギュレーションの中でいかに実現するか」と課題に言及した。

木造賃貸の地位向上

 木造の地位向上では、三井ホームの木造賃貸マンション「MOCXION INAGI(モクシオン稲城)」(東京都稲城市、総戸数51戸)が事例として挙がる。この物件は昨年11月に竣工。敷地面積は1499m2、5階建てで、1階がRC造、2~5階が木造枠組壁工法のハイブリッド構造だ。RC造で建築した場合に比べてCO2排出量を約50%削減、「モクシオン稲城」の木材によるCO2貯蔵量はスギの木(樹齢35年)の約2953本分に相当と、木造の脱炭素効果を立証する。

 耐久性、耐震性、耐火性を踏まえ、木造の賃貸住宅として物件情報検索サイトでは「アパート」ではなく、「マンション」として登録されたのは画期的であり、木造の地位向上につながるもの。「モクシオン」ブランドは既に複数の案件を受注済みだ。

瑕疵保証制度の提供

 木造耐震設計事業を展開しているエヌ・シー・エヌ(東京都港区)は昨年10月から、木造非住宅を対象に構造躯体の瑕疵保証制度の提供を開始している。同保証制度の概要は(1)構造躯体および基礎が対象、(2)瑕疵保証金額は1棟当たり最大1億円、保証期間は完成引き渡しから10年間、(3)SE構法(同社独自の耐震構法)で建築された延べ床3000m2以下・4階建て以下が対象――となる。保険料は構造部材費用の1%を適用する。部材の瑕疵や品質に由来するトラブルリスクを軽減し、木造非住宅市場への新規参入を促すのが狙いだ。

 また、同社はBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)や非住宅の設計で、国内に構造計算等ができる人材が不足していると認識し、人材育成を先行投資と捉えている。

国産スギの利活用

 木造中大規模建築物の普及で鍵を握るのはやはり非住宅と思われる。

 プレカット建材で日本一の生産量を誇るポラテック(埼玉県越谷市)の北大路康信専務取締役は「高齢者向けの施設、幼稚園、保育園などは鉄やコンクリートよりも木材のほうがいいのではないかと考え、設計者に木造を提案してきた。単価も一般的なサイズの木材で建てればそれほど高価ではない」と語る。3階建て以下の準耐火建築物では価格を抑制できるという。

 同社は設計者や木材流通業者が参画する「木造非住宅の会」を結成しており、この会から上がってくる一番の課題は木造を設計できる設計者、技術者が少ないことだ。北大路専務は「大学に建築学科はあるが、木造を教える、木を知っている先生が非常に少ない。建築学科で教えられているのはRC造や鉄骨造だ」と説明する。

 木造戸建て住宅などの建築確認では、構造関係の審査が省略される。また、木造の部材は樹種が豊富で、規格寸法も多様だ。同社は同会を通じて施工実例を基に、プレカットの加工技術、知識の啓発を行っている。

 改正木材利用促進法では、国産スギの利活用に注目する。スギは戦後、最も植えられた樹木だ。スギ材は木材の中でも比較的柔らかく、強度も若干弱い。建築構造や内装に使われる外国産のベイマツをいかに国産スギに切り替えるか――。スギ材の有効利用には材木の知識が重要であり、同社は講習会を開き、知識の普及を図っている。