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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇27 タテ・ヨコ・ナナメ 「令和マスターズさろん」 会社と世代超えた探求続く

 第3回「令和マスターズさろん」が12月7日、Webとリアルとの〝二刀流〟形式で開かれた。リアルの会場には代表理事の北川登志彦氏(東急不動産HD顧問)や理事、講師陣らが参集した。

 Web参加者には講演会が始まる5分ほど前から会場風景が映し出され、なごやかな雰囲気が伝わる中、アンドパッドの和田香織氏の司会でセッションが始まった。テーマは〝人流データ〟。

人流と不動産

 第1部では、ドコモ・インサイトマーケティングの鈴木俊博部長が同社のモバイル空間統計(日本全国24時間365日、リアルタイムに推計する人流データ)について解説。その後、同データが実際に不動産業にどう生かせるのかといった点について、企業向けの情報提供・分析サービスを展開するRESTARの右納響社長とディスカッションを行った。

 コロナ禍でよく耳にしたのが「緊急事態宣言が解除されて最初の日曜日、前の週と比べ人出が3割増えました」といったニュース。この人流データは携帯電話の位置情報を基にしているが、モバイル空間統計は従来のGPS単体による位置情報だけでなく、更に基地局情報を合わせたもの。それによりサンプルの質と量が格段に上昇し、より正確に人流実態を反映させることができる。

 第2部では、先日マザーズ

に上場されたフォトシンスの板倉大樹ビジネス本部エンタープライズソリューション部長が登壇。同社は貼るだけで工事不要の後付け型スマートロック端末「Akerun」を展開。スマホや社員証などでドアの開閉ができるので、オフィスに導入すると誰が、いつ、どの部屋を出入りしたかという情報をクラウド上で管理することができる。出社するときはその日を予約しておかなければ社員でも入室できないようにすることも可能でセキュリティ上も安心。  この「Akerun入退室管理システム」を導入している企業は大手中心に約6000社。それら企業の狙いとしては社員の行動管理だけでなく、そうしたオフィスの利用状況を把握することで自社が将来必要とするオフィス床の量とあり方を予測することにもあるという。

 最後に締めの挨拶を行った理事でコスモスイニシア社長の高智亮大朗氏はこう語った。「私も北川代表もKDDではなく、不動産業がKKD(勘・ 経験・度胸)と言われていた時代を生きてきた。それでも今はこうして不動産業の未来とその可能性を探る最先端の勉強会を開いている。会社や世代の垣根を超え、タテ・ヨコ・ナナメに交流して行くことが大事で、この会の強みでもある」

学校で講義

 不動産業の未来は地域への貢献にあると思う。不動産会社自身が、あるいは地域住民と共に地元の発展のために投資できる仕組みをつくり、サスティナブルな街づくりを進めていかなければならない。だから、不動産業には勘と経験と度胸が必要なのである。

 地元の人流データを活用して、街づくりにユニークな発想をする若い人材を育成していくことも必要だ。地域と共に発展していくしかないと覚悟を決めた福井県にある平田不動産の平田稔社長は先頃、地元中学校の課題学習の講師として122名の生徒を前に講義をしたという。

 「どこまで伝わったか分からない」と謙遜するが、これこそまさに世代を超えた交流と言えないだろうか。

 人口減少問題も、日本経済の行く末にも不動産業が大きく関わっている。不動産業に優秀な人材が流入してこそ日本の未来がある。

 最近気になるのは、電車に乗るとほぼ100パーセントの人がスマホとにらめっこをしている光景だ。自己の関心事だけに集中し、他者への無関心さを継続できるのはひとえに感性の劣化がなせる業である。感性が劣化した人間にイノベーションを生み出す力は生まれるだろうか。時空を超え、タテ・ヨコ・ナナメの人間交流を大切にする「令和マスターズさろん」への期待は高まるばかりである。