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台湾最大手の信義、日本法人トップに聞く 信義房屋不動産 何偉宏社長 華僑在日の意欲衰えず 海外投資家は都心に照準

 新型コロナウイルスにより国境をまたぐ動きが止まったままだ。約2年に及ぶ外国人の入国制限を受け不動産のクロスボーダー取引現場はどう変わったのか。コロナ前は東アジアからの個人投資家が東京湾岸のマンションを購入する動きが注目を集め、その中で台湾人が存在感を高めていた。コロナ禍のインバウンド動向について、台湾仲介最大手の信義グループ日本法人、信義房屋不動産(東京都渋谷区)の何偉宏(カ・ウェイホン)社長に聞いた。

 「不動産ビジネスを取り巻く環境が大きく変わっているものの、当社では今期(1~12月)の業績目標を達成する。取扱高300億円、取扱件数400件をそれぞれ計画していたが、11月までの実績で270億円、370件を確定している。12月の業績数字も既に見えており、年間の目標をクリアできる。取引別に見ると、住宅が85%を占めて、残りが店舗ビルを中心とする商業用不動産である」

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 コロナ禍にあってもインバウンド業態が底堅い理由は2つある。まずはITツールの浸透だ。昨年まで海外在住の購入希望者が慣れていなかったが、コロナ禍が長引き徐々になじんでIT重説が広がったことが大きい。台湾、香港、中国本土の顧客で取引全体の40%を占めている。

 次に在日華僑の住宅の購入意欲が旺盛だったことだ。在日需要は実需が中心で投資需要はほぼない。東京都内ではマンションだけでなく、戸建て住宅の希望者も増加した。 コロナ禍で広い間取りを求める動きが在日にも広がったことがうかがえ、立地も吉祥寺や三鷹など郊外に及んだ。都内は板橋区など城北地区の戸建て住宅に食指が伸びた。 政府の緊急事態宣言は9月末に解除され、社会経済の正常化を模索する動きが始まったが、取引現場は一段と忙しさが増した。10月と11月の成約は緊急事態宣言下であった9月単月との比較で取引が3割増したという。

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 「海外投資家の嗜好(しこう)はコロナ前も後も変わらない。東京都心を中心に1LDKや2LDKのコンパクトマンションを選ぶ。しかし、ワンルームタイプや1LDKは賃借人が付きにくいのが足元の賃貸市況である。このため当社では、購入予算を増額して広めの間取りを選ぶように台湾など海外在住の投資家にアドバイスしている」

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 海外に在住する華僑投資家を見ると、最近は新築マンションを好む人が増えている。来日できないことで、モデルルームなどウェブ案内をしやすい新築に客足が流れているためだ。もちろん、販売価格は高水準。都心エリアの価格は昨年の5000万~7000万円の水準から切り上がり、今年は1LDKで7000万円以上、2LDKで1億円以上となっているものの、台湾やその他世界の主要都市よりも割安だと、購入するのにためらいはない。購入者の属性はコロナ前と変わらず中小企業の経営者や公務員などが中心となっている。

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 「22年の業績目標は取扱高・取扱件数とも今年の30%増を目指す。来年のポイントは関西エリアだと思っている。大阪の拠点を中心に兵庫や京都にも注力する。もう一つのトピックスとしては、当社の日本人向け仲介専門店『SJ HOME』の2号店を4~5月に渋谷に出店する。19年1月に六本木に出店した1号店は黒字化できた」

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 新型コロナ禍でインバウンド需要が鳴りを潜めていたわけではなさそうだ。閉ざされている外国人の入国が来年の早い時期に解除になることに同社の何社長は期待する。

 そうなれば来期目標の大幅上振れも視野に入る。クロスボーダー取引に商機を見いだし、日台間の不動産投資需要を取り持つ会社がコロナ前は活発に動いていたが、長引くコロナ感染で同社に匹敵する競合会社が見当たらなくなったとの自信も垣間見せており、鎖国政策が解かれたアフターコロナを飛躍する好機と捉えている。09年12月の日本進出から丸12年。日本法人は来日当初の10倍超の110人の組織に拡大している。