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彼方の空 住宅評論家 本多信博 ◇22 心躍る不動産業 国民の分厚い信頼得て 新しい資本主義の柱に

 衆議院選挙で絶対多数を得た岸田政権のスローガンは「新しい資本主義」。その柱は「成長と分配」で、具体化に向けた議論(新しい資本主義実現会議)も始まった。来年春までに新たな経済社会の全体像をまとめるという。ならば、我が業界も新政権と足並みをそろえ、「新たな不動産業」の議論を始めるときである。

 「成長と分配」がなぜ「新しい資本主義」なのか。それは、経済は〝分配なくして成長なし〟という考え方に立つからである。「新たな不動産業」に当てはめるなら、「顧客への忠誠心(分配)なくして、業界の発展(成長)なし」である。というのも、不動産業ほど顧客との関係が密接な産業は他にないからである。

 事業者の嘘(うそ)や悪意はたちどころに顧客に甚大な不幸をもたらし、逆に事業者が忠誠を尽くせばそこに無限の需要が生まれる。

 新しい資本主義の具体化策として掲げられている項目の一つに、「企業が長期的な目線に立ち、株主のみならず、従業員、消費者、取引先、社会にも配慮した経営ができるように環境整備を進める」とある。企業は誰のものかといえば間違いなく株主のものだが、誰のために存在しているかといえば、広くは社会のためである。更に今後は「次世代のため」という視点が重要になる。

未来への責任

 街づくり、都市開発を主な業務とする不動産業はハード面から都市をつくる産業である。そこに建てられる建造物は今後100年先まで存在し続けるだろう。つまり、不動産業は未来に責任を持たなければならない。しかし、そうした認識は希薄だ。今、築40~50年足らずで老朽化を迎え、大規模修繕や建て替え問題に苦しむマンションが続出している。こうした事態は当初建設するときから予想し得たことではないだろうか。〝売り逃げ〟も〝建て逃げ〟も許されないのが不動産業である。

中小を支援

 岸田政権は分配政策によって、「分厚い中間層の再構築」も目指す。その具体策の一つが「中小企業・小規模事業者の業態転換を支援する事業再構築補助金の拡充」である。言うまでもなく、不動産業界最大の特質は中小業者が多いことである。全宅建業者(株式会社)の8割強が資本金2000万円未満の会社で占められている。 

 そうした中小業者の事業再構築に欠かせないのがDX(デジタルトランスフォーメーション)化に向けた支援である。賃貸仲介と管理を主な業務としている中小業者を支援することは事業者だけでなく、賃貸住宅のオーナーや入居者の支援にもつながる。

 いまだに賃貸住宅市場は「家賃並みのローン負担でマイホームが持てる」というセールストークによって分譲市場への流出という傾向下にある。つまり、マイホームを持つまでの仮住まいという位置付けから脱出しきれていない。

 家賃は〝掛け捨て〟ではなく、豊かな居住のための正当な対価と考えることこそ真の文化的社会である。そこで必要となるのが国の支援でファミリー型を含め賃貸住宅の家賃負担を軽減する政策である。持ち家促進のための優遇税制に比べ、賃貸住宅居住者に対する優遇策が少ないことは以前から指摘されてきた問題だ。「賃貸が得か、持ち家が得か」の議論をするなら、双方に対する国の施策を公平にすることが先決である。

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 ところで、新政権が掲げる「成長と分配」も、「分厚い中間層の再構築」も所詮は所得再分配の話で、心躍るワクワク感があるわけではない。高度成長時代のように、国全体の成長そのものに躍動感があるならば話は別だが。 つまり、「新しい資本主義」に必要なのは心躍る「新しい価値観」である。それは、これまでの「利益追求」から「幸福追究」への転換しかない。それを主導するのは、国民の幸福に直結した不動産業をおいてほかにない。