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社説 コロナ禍で進む不動産の最適活用 変容が豊かな生活を創造

 国土交通省社会資本整備審議会は19年、令和時代の幕開けに「不動産業ビジョン2030」を発表した。その基本コンセプトには「不動産の最適活用」が据えられている。同ビジョンでは、「時代の要請や地域のニーズを踏まえた不動産の形成」を促すことが必要だとし、そのためには「不動産の最適活用」が重要で、不動産業がその実現をサポートすべきだとした。コロナ禍の1年、働き方や暮らし方の行動変容が求められてきた。行動のみならず生活者の価値観も変容する中、不動産にかかわるビジネスやサービスも大きな転換期にある。

 不動産市場では既にそうした動きが顕在化してきている。在宅勤務をはじめとするテレワークの普及は多くの人々の生活スタイルを変えた。これらに対して在宅対応プランを取り入れた住宅の提案が活発化した。都心部や都市近郊でのサテライトオフィスやシェアオフィスなど分散型オフィスの需要拡大を受けて、その開発、供給が急ピッチで進んでいる。更に観光需要の蒸発で大ダメージを受けた宿泊業界や飲食業界でも「不動産の最適活用」が広がりを見せている。都市部では時間貸しを導入するホテルが急増。不動産会社がホテルと提携を広げ、長期滞在型の「ホテル暮らし」の事業を拡大。ホテル業界もこれに追随する。飲食店舗のシェアリングも広がり始めている。一方、地方では、ビジネスとバカンスを同時に両立させるワーケーションに国や地方自治体、不動産業界が強い関心を示しており、リゾート地に新たな需要を生み出そうとしている。

 二地域居住も「不動産の最適活用」の追い風だ。半年はワーケーションで地方に暮らし、半年は出勤主体の都市生活を送る。寒い季節は温暖な地、暖かい季節は避暑地で在宅勤務で暮らすなど、以前は夢物語でしかなかった生活スタイルが現実のものとなってきた。

 これまでにも「不動産の最適活用」は、社会の変化と歩調を合わせるように変化を見せてきた。大学周辺や学生街に学生向けアパートが集積しているのはその一例だ。近年では、中古不動産を全面改修して付加価値を高めるリノベーションが流通市場で大きなシェアを占めつつある。また民泊ブームでも、一般的な住宅地が宿泊地となり急増した訪日外国人の受け皿となった。

 不動産協会の定例会見で菰田正信理事長は、コロナ禍が働き方と暮らし方に行動変容をもたらし、不動産業にも大きな影響が及んだとしたうえで、「働く場所と働く時間の制約がなくなることで、仕事の生産性が上がり、同時に生活も豊かにできる。働き方が選択できる時代に向かうべきだ」と述べた。働き方、暮らし方の変容は生活をもっと豊かにする可能性を秘めている。そのカギを握るのが「不動産の最適活用」であり、不動産業だ。