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住宅展示場の意義 新型コロナが問う 統廃合の動きが必至、あり方の変貌も必要

 新型コロナウイルスの感染症拡大とそれに伴う外出自粛の動きが、住宅・不動産業全体に大きな影響を及ぼしている。それは単に売り上げなどの業績だけでなく、ビジネスのあり方、仕組みを変貌させようとしており、アフターコロナを見据え、それは劇的なものとなる可能性が高い。その象徴として総合住宅展示場(以下、展示場)が一例となると筆者は考える。結論から言うと存在意義が問われ始めており、統廃合は必至だ。更にそのあり方も変化が求められそうだ。 (住生活ジャーナリスト 田中直輝)

オンラインに一定の成果

 展示場はその草創期から、ハウスメーカーを中心とした住宅事業者の営業戦略の一翼を担う場として存在してきた。我が国が人口減や世帯数の減少局面となり、住宅産業がストックに軸足を移し、その影響から住宅市場が緩やかに縮小する中で、「住宅展示場は既に飽和状態」(展示場運営会社関係者)にあるとされるが、現在でも出展ハウスメーカーと消費者の重要な接点である。例えば、来場者数の増減は、ハウスメーカーの業績に関する先行指標となっている。

 ただ、ウイルス感染症拡大と外出自粛の動きは、展示場の閉鎖をはじめとする機能の停止・限定を招き、出展するハウスメーカーはその代替策を必死に追求した。顧客がオンライン上で住まいづくりの高いレベルまで行える商品(ネット専用の住宅商品)を用意、充実を図ったインターネット上で商談を行う仕組みを設けるなどといった取り組みがそうで、一連の動きがある程度の成果を上げたことが現在までに確認されている。

 また、新型コロナ禍以前に展示場の機能の一部を補完する、ライバルとなる存在も現れているのも展示場の置かれる状況を厳しいものとしている。それは、ネット専用住宅商品のほか、消費者がインターネット上であたかもモデルハウス内を見学しているような体験ができるバーチャル展示場の登場などだ。

 こうした一連の動きは、厳しい言い方になるが、展示場の存在意義の崩壊に直結する。出展ハウスメーカーにとって、それがなくても業績を維持できることがある程度分かったからだ。「将来的にはすべてネット上で営業行為を完結できる時代も訪れるのではないか」(ハウスメーカートップ)との声もある。

依然として高い認知度

 元々、春や秋の一時期を除き、展示場来場者は決して多いとは言えない状況だった。平日はおろか、土日祝日であれ同様だった。ハウスメーカーは出展料として多大な経費をかけているにもかかわらずである。新型コロナ禍で生産性の向上が非常に注目されている中で、このような展示場の状況にメスが入るのは避けがたいことであり、だからこそハウスメーカーによる出展の削減を含む展示場の統廃合は必至なのである。

 とはいえ、消費者から「住まいづくりの窓口」として、現在でも非常に高い認知度を確立しているのが展示場を軸とする営業の仕組みだ。また、見て・触れて・体感できるという実物があるというメリットは出展者、消費者双方にも評価されていることから、この仕組みが廃れるということはないだろう。このため、統廃合の中でも、消費者が「訪れてみたい」と感じる、特徴のある展示場は残るだろうし、展示場が今後、生き残る道だと思われる。住まいに関心を持たない人も訪れる、常に人が集まるようなスタイルに変貌できるようであれば、この長く住宅業界を支えてきた集客・営業システムとしての展示場は維持されていくだろうと、筆者は考える。

 なお、最後に直近の状況に少し触れておくと、「(7月は)今年1月以来6カ月ぶりに前年同月を上回った」(住友林業)という声があるなど、来場者数は持ち直しの状況にあるようだ。お盆の連休最終日(8月16日)に筆者が埼玉県内のある住宅展示場に足を運んだところ、猛暑のせいもあり人影はまばらだった。ただ、住友林業の話にあるように明るさも見え始めているため、今後の回復に期待したいところだ。