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コロナ長期化〝その後〟の視点 (下) 問われる〝交流〟の意味

 働き方改革の一環として注目されてきた「テレワーク」が、今回の新型コロナウイルス感染防止対策を機に一気に普及・拡大した。おそらくコロナ収束後もこの動きは続くだろうという見方が有力だ。

 ただ、人と人とが直接顔を合わる意義が改めて見直されるとの意見もある。双方を比較検討する動きも高まるのではないか。そして、社内外を問わず、仕事における〝交流〟のあり方を本格的に研究する企業も現れそうだ。その中から、直接顔を合わせる以上の効果や機能を持った新たなテレワーク技術が生み出される可能性もある。

 今回のコロナ危機が起きるまでは、フリーアドレスにしてもコワーキングスペースにしても、その最大の狙いは、普段交流しない人たちと接点を持つことが新たな発想や創造をもたらすというものだった。ただ、コロナが収束したとしても不特定の人たちとの接触に対する危機感はトラウマのように残ってしまう可能性もある。そうなると異業種間などでの直接交流をコンセプトに進められてきたオフィス革命もそのあり方や方向性に何らかの変化が出てくるのかもしれない。

〝東京脱出〟の動き

 日本では現在、都道府県別に見ると東京がコロナ感染者数・死者数共に最大となっている。人口密度や人々の移動機会などが突出しているからだ。そのため政府の緊急事態宣言後、東京を脱出して地方に帰省・移動する人たちが現れ始めた。今は一時的避難の意味合いが強いものの、今後もこうした新型コロナのような感染症が次々に発生すると考えた場合はどうなるだろうか。

 人口が集中する東京への警戒感が強まり、東京一極集中に対する評価が変わる可能性もある。不動産業に限らず、これまで東京一極集中を前提にしてきた多くの産業が、そうしたリスクがあることを視野に入れる必要があるのではないか。

防災から籠城機能へ

 日本では現在、外出自粛要請にとどまっているが、今後の状況によっては海外のように都市が封鎖され、外出も罰則が課されるなど厳しく制限されることも想定される。そうなると、これまで住まいに求められてきた防災機能(設備)の意味合いが変わる可能性がある。従来の防災設備は地震、台風などの自然災害で損なわれた生活インフラが復旧するまでの期間を想定していたが、ウイルス感染防止の場合はそれをはるかに上回る籠城期間を前提にしなければならない。

2地域居住が本格化?

 それでも今回のコロナが収束した後は、人の移動が再活発化するだろう。国内観光はもちろん、インバウンド需要もある程度回復すると考えられる。それらに加えて注目すべきは日本人の2地域居住や、地方への〝お試し移住〟ニーズではないか。

 長寿化でリタイア後の人生を楽しく、豊かに過ごしたいというアクティブシニアに加えて、若い世代にも住まい(生活拠点)に対する柔軟な発想が生まれる可能性がある。今回のテレワークの経験から、住まいが仕事場としての機能を持つことを実感すれば、どこにでも移住可能になるからだ。

 7月から全国の良質な空き家を活用して短期滞在型の宿泊サービス展開を予定している「全国渡り鳥生活倶楽部」の牧野知弘社長(オラガ総研社長)も「顧客ターゲットはアクティブシニアだけに限らない」と強調する。「働き方と住まい方が共に多様化していくことで、若い世代のライフスタイルにも様々なバリエーションが生まれようとしている」と指摘する。

 企業が成長するか現状にとどまるかは、コロナ収束後の価値観の変化をどう捉えるかにかかっている。(井川弘子)