総合

大言小語 心のバリアフリー化

 時差出勤やフレックスタイムが普及しても、毎朝の通勤ラッシュの激しさが改善したようには思えない。その日も対面のホームに停車している地下鉄に乗り換えようと飛び込むと、当たり前のように後続客が押し合いへし合い乗り込んできた。背中越しに強烈な圧迫を受けつつ、「もう乗れないよ」と心の中でつぶやいた。

 ▼しかしその日の車内はいつもと少し様子が違った。乗り込んだその奥にまだ少し空間があるのが垣間見えたからだ。隙間からその空間のほうをのぞき見ると、車いすの乗客がいることが分かった。「車いすの方が乗っていますので、押し込まないようにしてください」と発すべき言葉が雑踏にかきけされてしまったのならまだしも、声にもならないまま虚しさだけが残った。

 ▼来年夏、東京五輪・パラリンピックを控えて、東京では各競技会場の整備と共に、まちのインフラ整備も急ピッチで進んでいる。それに合わせて働き方改革の流れを汲み、大会期間中は在宅ワークを導入する企業の動きもある。まちのバリアフリー化が叫ばれて久しいが、現代はハードよりもソフト、ソフトよりも心のバリアフリー化が求められる時代。だからこそ「おもてなし」が東京誘致の決めセリフとして注目もされたのだと思う。国内外の多くの人々に心から喜んでもらえる「おもてなし」ができるのか、電車内の無言の圧力は一抹の不安を感じさせる。