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社説 人口減少下の住宅施策 住まいの社会的役割を再検証

 空き家問題は所有者不明土地問題などとも絡み、今や不動産業界最大の課題となりつつあるといっても過言ではない。かつて住宅を求める人が全国にあふれ、地価高騰問題に悩んでいた時代から見れば百八十度の環境変化が起こっているにもかかわらず、住宅政策の大転換が行われる気配すらないのはなぜだろうか。毎年の住宅税制改正要望を見ても、新規税制の創設ではなく既存税制の期限延長要望が中心となっていることにも、もどかしさを禁じ得ない。

 不動産事情が大きく変わった大本の要因は人口減少と長寿化であろう。日本社会は今後もかなりの長期にわたって人口減少が続く。高齢化も加速する。政府は少子化対策に本腰を入れてはいるが、子供を生む中心世代である20~30代前半の若い女性の人口が減り続けているため、合計特殊出生率が多少上がっても人口増加には結びつかない。

 では、人口減少下の住宅政策とはいかにあるべきだろうか。ここでは2つの視点を提示したい。

 一つは、今後新たに供給する住宅を将来、空き家にしないための政策である。現存する空き家の再生や有効活用は推進されているものの、人口減少が今後加速することを踏まえれば、将来の空き家抑制策こそ最重要課題ではないだろうか。「長期優良住宅」や「安心R住宅」など住宅の耐久性や流通性を長く保持していくための制度だけでは心許ない。なぜなら住宅のストック数は皮肉にも耐久性能の向上によって確実に増加していくが、住宅需要が減少の一途をたどるからである。

 具体的には〝一世帯一住宅〟の前提を超え、一つの世帯が2つ以上の住まいを持つ(働き方改革などで生活拠点が多様化する)ことを前提とした社会を構築する。あるいは、長寿化(人生100年時代)を踏まえ、住宅の長寿化を促す大規模改築や別の用途に転換する際にかかる費用を大胆に支援する制度も有効となる。

 二つ目は、人口減少、単身世帯が増加し続けるという社会で住宅が果たす役割の再検証である。単身世帯の増加は従来よりも賃貸住宅に対する需要を増やす可能性がある。賃貸は持ち家を持つまでの仮り住まいという認識を改め、住環境の改善はもちろん、一人暮らし世帯同士の交流を促すようなコミュニティづくりが必要になるだろう。

 住宅は重要な社会インフラだが、賃貸にも当然持ち家に果たせない大きな社会的役割があるはずである。特に、一人暮らしの高齢者や母子家庭など社会的弱者といわれる人たち向けの良質な賃貸住宅の整備が急がれる。

 また、若年層でも安心して子供を産み育てることができる良質な住宅環境の整備が待たれるが、経済面を考慮すればそれは、持ち家ではなく賃貸住宅のほうが実現可能ではないだろうか。