政策

社説 120年ぶりの民法大改正 信頼向上へ盤石の備えを

 120年ぶりという改正民法の施行(20年4月)まで1年半を切った。不動産業界への影響としては、例えば、これまでは最上位に位置付けられていた社会通念よりも当事者間の合意事項が重視され、その結果、契約文言や特約重視の傾向が強まるなど、取引契約のあり方が大きく変わる。不動産業界として準備は万全なのか。特に担当部局の設置や人材面など経営基盤が弱い中小事業者の対応の遅れ、それに伴うトラブル増加が懸念される。

 契約文言や特約文言の重視とは、例えばこれまで契約違反(債務不履行)については債務者に「責めに帰すべき事由」の有無が問題になっていたが、改正後はそれが「契約の趣旨に照らし、責めに帰すべき事由」へと変わる。また、「瑕疵担保責任」という言葉が廃止され、「契約の内容に適合しない場合の売主の責任」という表現に変わる。要するに、契約の趣旨をこと細かく明確に示しておくことが何よりも重要になる。

 今回の改正の背景にあるのが、取引のグローバル化だ。国内の取引であれば、契約の合意内容に不明確な点があった場合には、社会通念に照らして判断された。ところが取引の当事者の国籍が異なるケースが今後ますます増えることが予想される。国内の不動産に外国人が投資するような場合だ。その場合、裁判になってそれぞれが自国の社会通念を持ち出すわけにはいかないので、特約や容認事項などの細部の取り決めが判断材料となる。契約文言はそうした事態を想定したものにしておかなければならない。

 中古住宅流通(売買仲介)市場に与える影響も大きい。売主の瑕疵担保責任が、契約不適合責任という契約責任に変わるからだ。契約不適合責任が認められると、これまでの「瑕疵担保責任」(法定責任)よりも重くなると言われている。そのため、売主は責任を問われないように積極的にインスペクションを活用するようになるのではないか。

 一方、相続法といわれる部分では、配偶者が所有権はなくても自宅にそのまま住み続けることができる配偶者長期居住権を創設するなど、超高齢社会に対応するための改正が注目される。配偶者だけでなく被相続人を最期まで看取った者(例・被相続人の長男の嫁)に相続権がなくても、その寄与に応じた「特別寄与料」の請求を認めるといった制度も新設された。その他にも、自筆証書遺言の方式緩和、遺産分割に関する見直しなど、内容が多岐にわたる。不動産業界では今、相続コンサルティング業務が注目されているが、こうした内容にも精通していなければクライアントに不測の損害を与えることになる。

 このように今回の改正民法が不動産業務に与える影響は大きい。これまで築いてきた国民の信頼を失わないためにも、改正民法には盤石の備えで臨んでもらいたい。